ただ静かに、君とページをめくりたい

第2話 汐留くんと図書当番



次の日の放課後は、委員会のオリエンテーション。

図書委員は、図書室でやることになっている。

終業のチャイムが鳴ると同時に、みんなの話し声や、ガタガタと机や椅子を動かす音が響き始めた。

私はいそいそと教科書などを鞄に詰め込む。

さあ行こう。

そう思って鞄を持ち上げようとした、そのとき――。

「西本さん」

誰かに名前を呼ばれて、顔を上げる。

汐留くんが、私の席の近くに立っていた。 

私は、このとき初めて、汐留くんの顔を真正面から見た。

切れ長な目が私を映している。

確かに綺麗な顔立ちだな‥‥‥とぼんやり考えていると、汐留くんの薄い唇が動いた。

「行こうか」

「え?」

思わず声が出た。

え、今「行こうか」って言ったの?

行こうって……図書室だよね?

別で行くものかと思っていた。

なんの表情もない汐留くんだけど、その目は私をまっすぐ見ていた。

教室の喧騒が、どこか遠くに聞こえる。

私が驚いて固まっていると、汐留くんは少し首を傾けて言った。

「どこか寄るの?」

私は慌てて首を振る。

「ううん、図書室」

よく分からない返事をしてしまった。

気のせいか、汐留くんの口元が少し緩んだ。

「行こう」

そう言って、歩き出す。

私は鞄の紐を肩にかけ、汐留くんの背中を追いかけた。

ほ、本当に一緒に行くんだ……。

去年の男子とは別々に行ったのに。

そういえば、初めて汐留くんと話をしたかも。

なんだか現実味がなくて、頭の中がふわふわする。


まぁ、でも。

一緒に行くの、きっと今日だけよね。


それにしても……。

さっきから女子たちの突き刺すような視線が、痛い。





図書室は別の校舎にある。

二年生の教室が並ぶ廊下を通ると、女子たちがじろじろとこちらを見ていた。

私はうつむいて、汐留くんの一歩後ろを歩く。

時々、汐留くんに話しかける女子もいたけど、

「委員会だから」

と、汐留くんは短く返す。

階段を降り、渡り廊下を歩くころには人影も少なくなり、私はようやく肩の力を抜いた。

すると、前を歩いていた汐留くんが少し歩く速度を落とし、気づけば私たちは並んで歩いていた。

やや戸惑いつつも、私はそのまま歩き続ける。

ペタッ、ペタッ。

私たちの足音だけが妙に大きく響いている。

何か話したほうがいいのかなと思ったけれど、話題も見つからない。

気まずい時間だけが流れる。

図書室までの道が、いつもより長く感じた。

渡り廊下を通り、階段を上って、ようやく図書室に着いた。

図書室に入るとすでに何人かの生徒が集まっていた。
みんなやっぱり汐留くんのほうをちらちらと見ている。

私たちは図書室のホワイトボードに書かれた座席表を確認し、席へ向かった。

汐留くんの隣に座るのは一瞬ためらった。

でも本人は気にする様子もないので、私もその隣に腰を下ろした。



時間になると、草野先生が出てきて淡々と話し始めた。

草野先生は、中肉中背の四十代半ばの男性だ。

目つきが鋭く、怖がる生徒も多い。

オリエンテーションが終わり、最後に草野先生が

「図書室の本は丁寧に扱うように」

と全員をギロリと見渡した。

図書室にいるほとんどの人たちが、

「は、はい」

と、顔をこわばらせて返事する。



「また明日」

帰り際、汐留くんが私に向かって言った。

「う、うん。また」

と、私は返事をした。

それだけのやり取りのはずなのに、なんだか狐につままれたような気がした。



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