好きになる前に、恋人になった――いつか、君につながる
小明が、唐突に切り込んだ。

「好,下一个问题」
(じゃあ、次の質問)

奈緒が餃子を食べながら小明を見る。

「你现在有男朋友吗?」
(今、彼氏いる?)

奈緒がむせそうになった。
慌てて口元を押さえ、なんとか飲み込む。

そんなに驚くか。
また、口元が緩む。

「等……等一下。你怎么突然问这个?」
(ちょ、ちょっと待って。なんで急にそれ聞くの?)

小明は楽しそうだ。

「哪里突然?上次不是说好了吗?今天要聊你的事」
(どこが急なのよ。この前言ったでしょう? 今日は奈緒の話をするって)

「这个也算?」
(これも入るの?)

「当然」
(もちろん)

奈緒が困ったように俺を見る。

助けて。
たぶん、そういう目だ。

……話題、変えてみるか。

「要喝什么?换无酒精的?」
(次、何飲む? ノンアルにする?)

「……谢谢。乌龙茶吧」
(……ありがとうございます。烏龍茶がいいです)

店員を呼んで、烏龍茶を頼む。
ついでに小明の分も。俺はビール。

「为什么还有我的?」
(なんで私の分も?)

「你今天喝得有点快」
(今日ちょっとペース早いから)

「我没醉」
(酔ってないよ)

「嗯」
(うん)

「你这个‘嗯’是什么意思?」
(その「うん」は何よ)

奈緒が吹き出した。
飲み物が届くと、奈緒は烏龍茶を小明の前に置いた。

「先喝这个」
(まずこれ飲んで)

小明が、少し不満そうに奈緒を見る。

「奈绪」
(奈緒)

「喝」
(飲んで)

小明が渋々一口飲む。
笑ってしまう。

完全に立場が逆転してる。
でも、小明は諦めていなかった。

「所以呢?」
(それで?)

「什么?」
(何が?)

「男朋友」
(彼氏)

奈緒が小さくため息をついた。

「……没有」
(……いないよ)

一瞬。
胸の奥が、ふっと軽くなった。

ん?
今のは、なんだ。

「连约会的人都没有?有人约你吗?」
(デートしてる人もいないの? 誘われたりは?)

奈緒はもう笑いだしている。

「没有」
(いないよ)

「那我给你介绍一个?」
(じゃあ、私が紹介してあげようか?)

奈緒がたまらず声を立てて笑った。

「为什么突然变成这样?」
(なんでそうなるの?)

「因为你这么好的女生没有男朋友,太浪费了。下次来上海的时候,我帮你安排个饭局?」
(だって、あなたみたいな素敵な人に彼氏がいないなんて、もったいないじゃない。今度、上海に来るときに食事会しよう?)

「啊……还是你比较喜欢日本男生?中国男生不行?」
(あ、でも日本人がいい? 中国の人は違う?)

奈緒はもうツボに入ってしまったように笑っていた。
小明、こうなると止まらないからな。

「问题太多了啦……小明,来来来,我们吃东西吧?你看,这个韭菜鸡蛋饺子很好吃」
(質問が多すぎる……小明、ちょっと何か食べよう? ほら、このニラ卵餃子、美味しいよ)

「来,吴先……凯,您也吃」
(ほら、呉さ……凱もどうぞ)

あ、言い直したな。
てか、名前。呼んだ。

凱。

奈緒は餃子を一つつまんで口に運ぶ。
そういえば、話に夢中でみんな箸が止まっていた。

少し食べたところで、小明がまた口を開いた。

「对象只能是日本人?还是中国男生也可以?」
(相手は日本人だけ? 中国の人でもいい?)

小明、しつこいな。
奈緒はもうあきらめたのか、笑って答えた。

「国籍我倒不太在意」
(国籍にこだわりは、ないよ)

なぜか、その一言が耳に残った。

「那好!下次我真的给你介绍。我们来办个饭局!」
(じゃあ、今度こそ紹介してあげる。食事会しよう!)

奈緒はそっと小明の手に触れた。

「小明,谢谢你。可是饭局就不用了。要吃饭的话,我还是想就我们两个人一起去」
(小明、ありがとう。でも食事会はいいかな。ご飯に行くなら、あなたと2人で行きたい)

「为什么?你不想要男朋友吗?」
(どうして? 彼氏はいらないの?)

奈緒は言葉を選ぶように。

「想啊。一辈子一个人,还是会寂寞的。我当然也希望能遇到一个可以一起走下去的人」
(ほしいよ。一生ひとりは、やっぱり寂しいし。この先の人生を一緒に歩いていける人に出会えたら、とは思う)

静かな言葉だった。
俺は無意識に、グラスを置いた。

この先の人生を、一緒に歩いていける人。

俺も、そんな人がいたらいいと思ったことはある。
でも、この仕事をしていると簡単じゃない。

会いたいときに、会えるとは限らない。
人目を気にせず会うことも難しい。
俺と付き合うことで、相手が背負うものが多すぎる。

いつの間にか、望みながらも、どこか遠くに置いていた。

小明が奈緒を見る。

「那……」
(なら……)

奈緒が笑った。

「真的不用」
(本当にいいって)

「为什么?」
(どうして?)

「我现在住在东京,一开始就以异地恋为前提让你介绍,还是有点不好意思」
(今は東京に住んでいるし、最初から遠距離前提で紹介してもらうのは、ちょっと申し訳なくて)

少し考えて、続ける。

「而且,我还是更想自然而然地认识一个人」
(それに、やっぱり自然に誰かと知り合いたいなって)

「自然一点?」
(自然に?)

「嗯。慢慢认识对方,然后如果真的喜欢上了……那样比较好吧」
(うん。少しずつ相手のことを知って、それで本当に好きになれたら……その方がいいかなって)

自然に知り合って。
少しずつ知って。
それで、好きになる。

なぜか、その言葉まで頭に残った。
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