屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「さてと……」
私はエプロンの紐を結び直すと、台所へ向かった。今日はカレーとサラダを作る予定だ。人数が多いから、大鍋いっぱいに作らないと足りない。
みんなよく食べるし、おいしそうに頬張って食べているところを見るのは嬉しい。
冷蔵庫から材料を取り出し、包丁を握ったところで、ピンポーン、と玄関チャイムが鳴った。
「はーい」
誰だろうと思いながら廊下を歩き、玄関を開けた瞬間、私は思わず動きを止めた。
そこに立っていたのは、父の弟――叔父の九条孝だった。
けれど、今は親戚付き合いはほとんどなく、両親の葬儀以来まともに顔を合わせた記憶もない。
スーツ姿のまま立つ彼は、この暑さの中でも汗一つかいておらず、無機質な目でこちらを見下ろしていた。
「あの……どうされたんですか?」
私が戸惑いながら尋ねると、叔父は挨拶もなしに口を開く。
「お前、よくそんな我が物顔でここにいられるよな。ただの他人のくせに」
「……他人じゃありません。ここは私の両親の家です」
「他人だろう。お前は兄たちの実の子じゃないんだから」
そう言われて、言葉に詰まる。この人は昔からこういう言葉を何度も言ってきた。
両親が親戚付き合いを減らしたのも、私が傷つかないためだったと思う。
でも、両親亡き今、甘えてはいられない。
「私は、ふたりの子どもです」
まっすぐにそう言った。
四歳で両親を亡くして、親戚の家を転々とした。子ども一人増えるのは大変だというのは分かっていたが、どこでも冷たくされ、叩かれる場面だってざらにあった。
五歳にしてすでに未来への希望なんてなくなっていた私だったが、親戚でもない、実の両親と生前仲が良かっただけという九条家に引き取られることになったのだ。
だから私は九条の両親とは直接血のつながりはない。
だけど、ふたりは『血の繋がりなんて関係ない』と言ってくれて、大切に、しかし厳しく育ててくれた。私もそうしていくうちに二人を両親だと思うようになった。
早くに両親を亡くした私にとって、血のつながりではなく、過ごした時間が家族をつくるのだと思わせてくれた二人だ。