屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

「九条さん」

 役員たちが会議室へ入り、廊下に再び静けさが戻った頃だった。
 聞き慣れた声に振り返ると、そこには社長秘書の綿貫さんが立っていた。

 相変わらず隙のない佇まいで、手にはタブレット端末を抱えている。

「綿貫さん、お疲れさまです」
「お疲れさまです」

 軽く会釈を交わしながら、私はふと疑問を口にした。

「綿貫さんは会議には入らないんですか?」
「えぇ。グループの役員会議は基本的に社長お一人で参加されています」

 綿貫さんは穏やかな口調で答える。

「私はその間、各部署との連絡調整や緊急案件への対応がありますので」
「そうなんですね」

 てっきり秘書というものは常に社長の隣に座っているものだと思っていたから、少し意外だった。
 そこで、ふいに先ほど見た社長の表情が頭をよぎる。

 気のせいかとも思ったけれど、どうしても引っかかっていた。
 私は少しだけ声を潜めた。
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