屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「あの……社長、なんだか緊張されていました?」
そう尋ねた瞬間、綿貫さんの目がわずかに見開かれる。
いつも冷静な彼が珍しく驚いたような表情を見せたので、逆にこちらが戸惑ってしまう。
「……よくおわかりになりましたね。私でも気づくのに少し時間がかかったんですが」
綿貫さんはそう言って小さく笑った。どうやら見間違いではなかったらしい。
「なんとなくですけど……いつもより少し顔が硬かったので」
「そうですか」
綿貫さんは会議室の扉へ一度視線を向け、それから静かに続けた。
「若くして社長に抜擢されましたから、親族内での反発も少なくなかったんです」
そういえば以前、総務部の先輩たちが噂していた。
朝霧家は一筋縄ではいかない、と。巨大企業の創業一族で、親族だけでもかなりの人数がいるらしい。
その中でいくら血統があっても、若くして社長になるというのは、当然ながら全員に歓迎されるわけではないのだろう。
さっき見た社長の表情の意味を、私はようやく理解した。
味方ばかりではない場所へ向かうから気を張っていたのだ。
すると綿貫さんがじっとこちらを見た。