屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 ――社長は、こういう人なのかもしれない。

 甘い言葉を口にする代わりに、現実的な方法を探してくれる。慰める代わりに解決策を示してくれる。
 私はそんな社長を見つめながら、最近ずっとわからなくなってきていた気持ちを思い出した。

 最初はとにかく屋敷を守るためだった。契約結婚生活を始めてからずっと、社長に早く私を好きになってもらう。それだけを考えてきた。

 だから料理を工夫し、どうすれば一緒にいる時間を増やせるのか、どうすれば少しでも距離を縮められるのか、そんなことばかり考えていた。
 それなのに、いつの頃からだろう。

 帰宅時間が遅い日には、ちゃんと食事を摂っただろうかと気になるようになったのは。
 顔色が悪ければ仕事が忙しいのだろうかと心配になり、休日も電話ばかりしていれば少しくらい休めばいいのにと思うようになったのは。

 気づけば、屋敷は関係なく、社長の心配をしている時間のほうが増えていた。
 そして、いつの間にか無理に好きになってもらおうとは思わなくなった。

 ただ――この人が少しでも楽になればいい。もう少し笑ってほしい。

 そんなふうに思うようになっていた。
 社長は私を全然好きになっていないのに、これじゃ私だけがまるで――。
< 108 / 228 >

この作品をシェア

pagetop