屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

「あ、あの……社長」

 声を掛けても、社長は振り返らないまま前を歩き続ける。
 怒っている。それも、おそらく私が想像している以上に……。

 私は戸惑いながらももう一度声を上げた。

「社長!」

 その声でようやく我に返ったのだろう。
 社長の足が止まり、掴まれていた手がゆっくりと離される。

 私はその場に立ち止まったまま、少しだけ乱れた呼吸を整えて目の前の人を見上げた。
 街灯の光が社長の顔を照らしている。

 社長は何かを飲み込むように黙り込み、わずかに視線を伏せ、それからようやく私へ視線を向ける。

「……すまない。夏音が触れられているのを見たら、我慢できなかった」

 胸の鼓動がさらに激しくなり、うるさい。
 っていうかやっぱりさっきから『夏音』って呼び捨てだし……。
< 118 / 228 >

この作品をシェア

pagetop