屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 そのとき――。

「久しぶりだな、清正くん」

 聞き覚えのない男性の声に振り向くと、五十代ほどの男性がこちらへ歩いて来ていた。
 その表情には笑みが浮かんでいるものの、どこか冷たい瞳に見えた。

「えぇ、お久しぶりです」

 清正さんも表情を変えずに応じる。しかし相手はそのまま口元を歪めた。

「いやはや、清正くんの名前は有名だからね。ご自身の利益のためならどんな決断でも下せる方だと聞いているよ。社員も取引先も、盤上の駒として等しく扱われるとか、一つのミスで僻地に飛ばされるとか……。そこまで徹底できる経営者はなかなかいないよ。私など甘くて到底真似できない」

 私は思わず隣に立つ清正さんを見た。
 彼は怒るでもなく、反論するでもなく、ただ相手を見つめている。

 私もずっとそう思っていた。清正さんには血も涙もないって。だけど……今は違う。
 誤解されやすいけど、社員の人生を第一に考えてる。

 本当にどうでもいいと思っているなら、部長だってあんなふうに言わない。
 そう思った瞬間、気づけば口が動いていた。
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