屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 清正さんが再び別の企業の社長に呼ばれ、その場を離れていったのはそれからしばらくしてから。私は煌びやかな照明に照らされて並ぶ料理へ視線を向け、せっかくこうした格式高い席に来たのだから少しくらい味わってみようかと考えていたのだが――。

「どうしてこんなところにいるんだ」

 不意に背後から聞こえた低く重い声に振り向いた瞬間、身体が反射的に強張った。私は慌てて姿勢を正す。

「お、お久しぶりです」

 そこに立っていたのは叔父である九条孝だった。以前、家の立ち退きを一方的に告げられた日以来だ。
 年齢を重ねてもまるで衰えない威圧感を纏ったその姿は、いつもと変わらない。

 鋭い視線で見下ろされるだけで幼い頃から染み付いた萎縮する癖が顔を出して、私は無意識のうちに肩を小さくすくめていた。

「文句でも言いに来たのかと思ったぞ」
「文句……ですか」
「屋敷のことだ」

 確かに屋敷が売却されたと知ったときは大きな衝撃を受けたし、何の相談もなく話が進められていたのにも納得できなかった。
 どうしてあの家を手放さなければならなかったのかと考えるたびに怒りが込み上げてきたのも事実だったのだが、今となってはその出来事がなければ清正さんと同じ屋根の下で暮らすこともなかったのだと思える。
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