屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「……仕事、だよね」
翌朝、誰に聞かせるでもなくそう呟きながら朝食の準備をしていた私は、自分の声が思っていた以上に弱々しく聞こえた。
もちろん仕事なのかもしれない。
それなのに、昨日見た光景とどうしても結びついてしまう。
もしかして二人は昨日――。
「私、何考えてるんだろ……」
テーブルの上に置かれたスマートフォンへ視線を落としながら、連絡が来ていないか確認しては画面を閉じるという行為を何度も繰り返していた。
しかし、期待していた名前は一向に画面に現れない。
そして昼を過ぎた頃、ようやく一度だけ電話が鳴った。
「もしもし!」
慌てて応答した私の声は自分でも驚くほど弾んでいて、それに気づいた瞬間に恥ずかしくなる。
電話の向こうにいる清正さんはそんな私に気づいた様子もなく、いつもと変わらない落ち着いた声で用件だけを告げてきた。
『すまない。急な仕事で今日も帰れそうにない』
「大丈夫です。お仕事なら仕方ないですし」
『……来週は帰るから』
短い沈黙のあとに彼は続ける。
『そのとき、少し話をさせてくれ』
「話……ですか?」
『ああ』
それだけ言うと通話は終わった。
――『少し話をさせてくれ』
その言葉が頭の中で何度も繰り返される。
今の私には、どうしても別の意味にしか聞こえなかった。
「……別れ話、かもしれない」
どうしようもなく重くなった不安を抱えたまま一人きりの時間を過ごしていた。