屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
月曜の朝、私はほとんど眠れないまま、重たい身体を無理やりベッドから引き起こした。
鏡に映る自分の顔色の悪さに苦笑しながらも、身支度を整えて会社へ向かった。でも、いつもなら出社して仕事モードに切り替わるはずの気持ちは、会社に足を踏み入れても浮上しなかった。
受付を通り過ぎようとした瞬間、視界に飛び込んできた人物の姿に私は思わず足を止める。
「あ……」
できることなら今は会いたくなかった相手。
玲子さんだ。
タイトなスーツを完璧に着こなし堂々と立つ姿は、相変わらず眩しい。
けれど今の私にはその眩しさが鋭い刃のように感じられ、反射的に逃げようとしたときには、すでに玲子さんはこちらへ気づいていた。
「あら、夏音。あなたそういえば、ここに勤めていたわね」
「はい」
「会社でも相変わらず地味なのね」
くすりと笑った玲子さんは明らかに私を見下しているが、悔しいのに否定できない自分が余計に情けなく感じられた。
「今日は何かご用事ですか」
このまま立ち去ってほしいという願いを込めてそう尋ねると、玲子さんはわずかに口元を緩める。視線をこちらへ向けてきた。
「ええ、清正さんにね。でも、一般人には関係のない話よ」
九条不動産の専務と朝霧不動産の社長の話。
確かに会社同士の話なら、私のような一社員が関わる領域ではないのだろう。
けれど玲子さんの瞳は、最初からそんな話をするために私へ声をかけたわけではないと物語っていた。