屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 そのとき、「九条さん。……あの、おはようございます」と声をかけてきたのは、森本くんだった。
 社長に声をかけられたあの日から、少し距離を置かれていた気がする。

「あ、おはよ」
「あの……さっきの話、少し聞こえてしまって」
「え……あの……」

 結婚とか、離婚とか、そういう話まで聞こえていただろうか。
 そう思って顔を青くすると、森本くんは続ける。

「俺、あれから九条さんと社長が結婚してるって聞きました」
「え……」
「直接、社長から」

 あの人は、部長と課長以外にまでなんてことを吹聴してくれているんだ。
 そう思っていたら、森本くんは真剣な表情でこちらを見つめる。

「でも、さっきの女性、九条不動産の専務ですよね」
「よく知ってるね」
「俺の元彼女が専務秘書だったんです。朝霧社長と同じ高校だったみたいで、朝霧社長と結婚するって、ずっとそんな話されてたって聞いてたので……。だから朝霧社長から九条さんとの話を聞かされたときに、おかしいなって思ったんです」

 秘書までそんな話を知っているなんて、玲子さんの気持ちは本物だろう。
 すると、彼は少し気まずそうな表情になる。

「あのときは直接聞けなかったんですが……九条さんって、社長と本当に結婚してるんですか? 好き同士で? 俺、一度はそうだろうとあきらめようと思ったんですが……。今の話聞いてたらそういうわけでもないみたいだし……」
「それは……」
「俺、おかしなこと聞きました?」

 森本くんが私を覗き込む。

「いや。そもそもさ、決めるのは最初から私なんかじゃないんだよ」

 私が言うと、森本くんは「じゃあ、やっぱり俺もまだチャンスあるんですかね」と笑った。
 思わず苦笑しながら「それはないよ」と返す。
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