屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
気付けば私は、辛い想像に背中を押されるように荷物をトランクへ詰め込んでいた。
服も、化粧品も、最低限必要なものだけを慌ただしく押し込みながら、それでも手が震えてしまうのは未練があるからなのだろう。
「夏音、何をしている」
「あ……」
低い声が背後から聞こえた瞬間、身体がびくりと震えた。
振り返れば、いつ帰宅したのか清正さんが険しい表情でこちらを見つめていた。
見つかった。
そう思った瞬間、逃げ場を失ったような気持ちになり、思わず視線を彷徨わせる。
「あ、あの……」
「その荷物は何だ」
「それは……」
問い詰めるような声にうまく言葉が出てこず、それでも何か言わなければと思って拳を握り締めながら無理やり笑みを作った。
「ほら、私……もう清正さんには好きになってもらえないと思うので。だから、この賭けは私の負けです。かといって私は一生、契約結婚なんて続けられないから……屋敷を諦めて出て行きます」
自分で口にした瞬間、私は思わず目を伏せた。
「負けたから出て行くのか? そうまでして俺と一緒に暮らしたくないか。あのとき、好きだと言った言葉は嘘か」
「嘘じゃない!」
反射的に叫んだ声が思った以上に大きく響き、驚いて息を呑み首を横に振った。