屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
最初は興味のある本を読むために足を運び始める。
けれど一度足を運び、二度足を運び、気づけば毎週のように九条家へ通うようになっていた。
「きょーくん! 虫取りしよう!」
「嫌だ」
「鬼ごっこ!」
「嫌だ」
「かくれんぼ!」
「だから嫌だって言ってるだろ」
そう言っても最終的には引っ張り出される。
夏音はとても強引だった。
本を読みに来たはずなのに、いつの間にか庭を走らされ、虫を追いかけさせられ、気づけば泥だらけになっている日も珍しくなかった。
「はい、ハンカチ」
汚れた手を洗っていたら、ハンカチがないことに気づいた俺に、夏音がハンカチを差し出した。
「……ありがとう」
「どーいたしまして!」
なぜか夏音の方が嬉しそうに笑う。
「お前は……どうして俺に構うんだよ。学校でもみんな怖がって話しかけてこないのに。お前にメリットなんてないだろう」
そんなふうに聞いたことがあった。夏音は当たり前みたいにこういった。
「私ね、きょーくんにもここも、ここのみんなも、好きになってほしいんだ!」
「どうして好きにならなきゃいけないんだよ」
「だって、自分が好きな場所を好きになってもらえたら嬉しいじゃん!」
理屈がよくわからない。
「ならないよ」
「なるよ。私が好きにならせてみせるから! 任せて!」
なにをする気だ。そう思いつつも、いつか分かってしまうように感じる自分もいた。
それに、夏音の両親はいつも俺を歓迎してくれた。
「いらっしゃい、きょーくん」
「今日は夕飯も食べていきなさい」
そんな言葉をかけられるたびに胸が温かくなる。
朝霧家にはない空気だ。
いつでも誰かの笑い声があって、誰かが誰かを気遣っていて、失敗しても怒鳴られなくて……。
そこはまるで陽だまりみたいな場所だった。
だから俺は何度も足を運び、気づけば週末が待ち遠しくなっていた。