屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
それでも、彼女との距離は何年経ってもまったく縮まらなかった。
社長と社員。それ以上に縮まるはずもない。
そんなある日、総務部のあるフロアを通って社長室へ戻ると、秘書の綿貫が書類を整理していた手を止め、半ば呆れたような顔でこちらを見上げた。
「また総務部の方からお戻りになられたのでしょう……」
「何か問題でもあるのか」
綿貫は、まったく納得していない顔をしている。
「役員エレベーターを使って戻ってくれば、五分ほど違います」
「誤差だろ」
「毎日積み重ねれば大きな差になります。それに社内では、社長がちゃんと働いているか、部署を監視していると噂まで立っていますし」
淡々と返され、俺は小さく眉をひそめた。
綿貫は昔からこういう男だった。余計な話はしないが、言うときは容赦がない。
案の定、次の言葉も遠慮がなかった。
「そこまで気になさるなら、直接お話になればよろしいのではありませんか。九条さんと」
図星を突かれた気がした。なんで相手が夏音だと知っているんだ、と言いたくなったが、綿貫に聞いても無駄だろう。俺は諦めて肯定したことになる返事をした。
「あちらがこちらを嫌っている」
「まぁ……そうでしょうね」
「せめて否定しろ」
思わずツッコんでしまうと、綿貫は苦笑する。