屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
 綿貫は話題を切り替えるように手元の書類を差し出した。

「そういえば、新設の地下鉄のルートですが、屋敷のある住楽地区を通るルートも、緑都地区に次いで有力視されているようです。それで、すでに何度か屋敷の方へ打診が入っているとのことで……」
「断っているんだろうな」
「はい。すべて断られているようです」

 綿貫の返答に、俺は小さく息を吐いた。
 夏音なら断るだろうと思っていた。あの屋敷を簡単に手放すはずがない。

 だからこそ心配だった。
 綿貫の声も低くなる。

「だからこそ強行突破を選ぶ企業が現れる可能性もあります。周辺の土地を先に押さえ、包囲する形で圧力をかける手法は珍しくありませんし……。それに土地の権利自体は九条さんが持たれているようですが、その相続の際はまだ未成年だったので、叔父である九条孝が手続きを行っています。九条不動産の社長ですね」

 九条不動産といえば、かつては日本有数の不動産業者だったが、この九条孝が継いでから経営が不安定になっている。
 俺の表情を見ながら、綿貫はさらに続けた。

「九条不動産及び周囲の動向におかしなものはないか、こちらでもう少し探っておきます。どうやら資金繰りで困っているという話も耳に入っていますし……」
「頼む」

 短く答えながら、俺は窓の外へ目を向けた。
 嫌な予感がしていた。理由はなかったが……。

 そして、その予感はほどなくして現実になる。
< 206 / 228 >

この作品をシェア

pagetop