屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
数日後。
あの屋敷の土地と建物の権利が、夏音から九条不動産へ移っているという情報が耳に入ったとき、俺は手にしていた資料を思わず握り潰しそうになるほど強い衝撃を受けていた。
夏音が手放すはずがない。誰よりもそう思っていたからだ。
そして同時に、何かが起きたのだと直感した。
俺は迷わず九条不動産に連絡を取った。
あの屋敷だけは守らなければならない。その思いだけで動いていた。
出向いた俺を待っていたのは、九条不動産の社長と、その娘であり専務でもある玲子だった。
大きな窓から差し込む光の中、九条社長は落ち着いた様子でこちらを見つめており、その隣では玲子がどこか楽しそうな表情を浮かべている。
玲子の方は同じ海外のハイスクール出身だ。何度か告白を受けた記憶があり、俺は何度も断っていたが、勝手に付き合っていると吹聴されたり、勝手に他の女性を牽制したりと、本当に面倒な女性だった。
同じ名字でまさかと思っていたが、夏音とは戸籍上は従姉妹関係にあるらしい。玲子本人は『あの子は血は繋がってないからただの他人。寄生虫みたいなものだ』と言い切った。
その言い草にますます彼女が嫌いになった。
気を取り直して、屋敷についての話を聞いてみると、夏音が承諾し、九条不動産があの土地の権利を取得したという内容だった。
そうは言われても、俺はいくら親戚の不動産業者だからと言って、夏音が自ら手放したとは思えなかった。しかも、今になって……。
「一点、確認したいことがあります。本当に合法的に取得された土地なのですね」
俺はふたりの目を真っ直ぐ見据えながら口を開いた。
一瞬、空気が張り詰める。
失礼な質問であるのは分かっていたが、聞かずにはいられなかった。
夏音があの屋敷を売るはずがない。その思いがどうしても拭えなかったのだ。
「もちろんです」
九条社長は即座に答えた。
「弁護士も入っておりますし、こちらも企業ですからね。違法な行為をするわけがないでしょう。それに、そもそもあの土地は私の血の繋がった両親のものなんです。自分の手に戻ってくるのが当然かと思いますが」
きっぱりとした口調だった。
おそらく嘘は……少なくとも表面上はない。訪問前には書類も確認したが、所有権の移転は確実に行われていた。
ここで追及しても意味はないと判断した俺は、話を切り替えた。
「お売りになる予定は?」
「少なくとも地下鉄のルートが本決まりになるまではうちで持っておく予定にしています」
「……ひとつ提案があるのですが」