屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「提案?」
「ええ」
俺はゆっくりと言葉を選ぶ。
「うちの会社に――いや」
一度言葉を切る。これは会社としてではない。もっと個人的な事情が含まれている。
「私にあの屋敷と土地を売ってください」
その言葉に九条社長が目を開いた。
「私なら、市場価格より高い十億で買い取れます。もし地下鉄のルートが決まり、周辺一帯が都市開発区域に指定された場合でも、かなりの利益が出る。もちろん、そのあたりは把握されていらっしゃいますよね」
九条社長は腕を組んだ。
すぐには返事をしない。当然だ。うますぎる話に裏があるとでも思っているだろう。
俺はさらに加えた。
「失礼ですが、会社の財務状況も調べさせていただきました。現金も必要なのですよね」
「それは間違いないですが……」
「それにもし、あの土地で都市開発が実現しなかった場合、土地価格は一気に下落します。現在はそれも含めて高騰しているはず。御社は損失を抱える必要がない。リスクを全て私が引き受けます。もちろん弁護士を立てて契約書も作成しましょう」
静かに言い切ると、九条社長は再度考え込むように顎へ手を当てた。
悪くない条件のはずだった。少なくとも経営判断としては……。
その沈黙を破ったのは玲子だった。
「朝霧社長とつながりができるなんて、とても光栄だわ。いいお話じゃない」
「私もそう思います」
なんとか言葉を合わせた。すると、嬉しそうに玲子が言う。
「契約書の作成は私が行うわ。いいでしょ、お父さま」
「しかし……」
「今の清正さんの活躍を見て、やっぱり昔の私の見る目は間違ってなかったと思っていたの。この契約を機にもっと仲良くなれると思うのよ。もしもその先、結婚なんてことになれば土地だって、結局……ね」