屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「覚えていないのも無理はない。当時は本当にたくさんの子どもが出入りしていたからな。俺はなかなか輪に入れなくて、いつも端にいた」
そう語る横顔は、少しだけ昔の少年の姿を思わせるものだった。
「そんな俺を見つけた夏音が無理やり引っ張ってきて、みんなの輪に入れたんだ」
「私が?」
「ああ。遠慮なんて全くしなかったな。ここも、皆も好きになってほしいと言って。どこからあんな自信が出るのかわからないが、その通りになった」
そう言われてみれば、そんなふうに言っていたような気もする。
昔の私は誰にでも遠慮なく話しかけていたし、この場所が誰よりも誇りで、皆が好きになるものだと信じて疑わなかった。
「でも、俺はそのあとすぐ留学が決まった。ろくに挨拶もできないまま日本を離れることになったんだ。最後に何も言えなかったのがずっと心残りだった」
それを聞いた瞬間、胸の奥にあった記憶がゆっくりと動きだした。
両親がいた頃の屋敷には毎週のように多くの子どもたちが集まっていて、私は楽しく走り回っていた。
その中に一人だけ、いつも少し離れた場所に立って本ばかり読んでいる男の子がいた。
私が無理やり手を引いて遊びに混ぜた男の子。
嫌だと言いながら、徐々に輪に入って、ほんの少しだけ笑ってくれるようになって……。その笑顔が私は大好きになって……。
それから毎日家でその子の話ばかりしていて、両親にもからかわれた。
ずっと変わらずその子に会えるものだと、私は信じていた。
しかしある日突然、屋敷に来なくなったのだ。
私は何日も待った。だけど、その子は来なかった。
寂しくて、ショックで……だからこそ、記憶に蓋をしていたのかもしれない。
その子の顔を鮮明に思い出して、私は彼を見上げた。
「きょーくん……」