屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 その後、会長と清正さんが一緒にこちらへ歩み寄ってきた。私は深く頭を下げる。

「あの……再開発の件、ありがとうございます。お二人がご尽力してくださったと聞きました」

 会長は微笑んで、口を開いた。

「君はここが本当に好きなんだな」
「はい」
「私もだ」
「え……」

 私が驚いて会長を見上げると、会長は遠い昔を思い出すように視線を庭の向こうへ流した。

「私は、元々君の祖父と親交があってね。ここでの集まりに呼ばれたとき、この屋敷で妻と出会ったんだ」
「えっ……」
「だからな、この屋敷がなければ清正も生まれていなかったという話になる」

 穏やかな口調で語られた言葉に、私は思わず息を呑む。
 隣にいる清正さんへ視線を向けると、彼もまた初めて聞いた話だったらしく、わずかに目を見開いて会長を見つめていた。

「そうだったんですか!」
「あぁ。だから、この屋敷には少なからず思い入れがある。それもあって、一度ここで集まりがあったとき、清正を連れてきたんだ」

 会長はそう言って庭木や縁側、昔から変わらない母屋へ順番に視線を向けると、どこか感慨深そうに目を細めた。

「まだ、ここまで昔の姿を残したままここにあるなんて思わなかったよ。もうとっくになくなっているものだと思っていた。街はこんなにも変わってしまったのだからな」

 都市開発によって姿を変えていった街並みを思い出しているのだろう。
 会長は懐かしさと寂しさが入り混じったような表情を浮かべていた。

「私は清正さんとこれからもここを守っていきたいと思っています」

 私が自然とそう口にすると、会長は私を見つめて満足そうに頷いた。

「あぁ。……それでな、君の作ったここの運営計画書は清正から読ませてもらったよ」
「え、あれを?」
「少し甘い部分もあるが、しっかり詰めれば十分実現できる内容だ」

 予想もしなかった言葉に私は目を見開いた。会長は頷く。

「朝霧グループとしてもできる協力しよう」
「ありがとうございます!」
「期待しているよ」

 私は深々と頭を下げる。
 そのまま顔を上げた瞬間、夕暮れの光に照らされた屋敷が視界いっぱいに広がった。

 まさか清正さんの祖父母が、この屋敷で出会っていたなんて――。そんな奇跡みたいな縁が何十年もの時を超えて今の私たちへ繋がり、そしてその場所でこうして彼と並んでいるのだと思うと、不思議な運命に導かれてここまで来たのだとしか思えない。

 私は隣に立った清正さんの手をそっと握った。清正さんも握り返してくれる。
 もう二度とこの手を離したくないと静かに願った。
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