屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 翌朝。

 私は人生で初めてと言っていいくらいの早朝に起き、まだ外も薄暗い時間からキッチンに立っていた。
 昨日の夜、散々スマホで恋愛攻略法を調べた結果、とりあえず最初のミッションは決まったからだ。

 ――相手の好きなものを知る。

 つまり今日からは、そのための情報収集だ。

「……よし」

 私は両手で頬を叩き、小さく気合いを入れた。
 朝霧社長は早朝に出勤するらしい。だから食事はいらないということらしいが、なら、むしろそのタイミングを狙うしかない。

 相手はあの朝霧社長で怖いけれど、ここで逃げていては攻略どころではない。
 私は深呼吸してからリビングへ向かった。

 すると、ちょうど階段を下りてきた朝霧社長と鉢合わせる。
 黒のスーツに、きっちり締められたネクタイ。寝起きとは思えない整った姿に、一瞬だけ『朝から圧が強いな……』と思う。

「お、おはようございます」
「あぁ。おはよう」
「コーヒー、淹れますけど、飲みませんか?」
「……いや、もう出なければならない」

 断られたが、あまりショックではなかった。なんとなくそう言いそうな気がしたからだ。
 私はできるだけ自然な笑顔をつくった。

「えっと……社長って、好きな食べ物とかありますか?」

 その瞬間、朝霧社長がぴたりと動きを止めた。

「別に何でも食べると言っただろう」
「でも、好きなものくらいありますよね? お肉とか魚とか、甘いものとか……」
「ない」
「な、ないってことあります?」

 私は思わず素で突っ込んでしまった。
 そんな私を見下ろしながら、朝霧社長は淡々と続ける。

「食事に娯楽性を求めていない。効率よく栄養が摂れれば十分だ」
「夢がない……」
「夢を食べて生きられるなら安上がりでいいな」

 うわ、嫌味!
 という言葉はなんとか飲み込んだ。

 もう諦めて戻ろうとした、その時だった。
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