屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「す、すみません……!」
慌てて離れようとした私の腕を、朝霧社長が掴んだ。
「そこで慌てると危ないぞ」
低い声が耳元近くで落ちる。
その声だけで、さらに心臓が暴れだした。
しかし次の瞬間には、朝霧社長はすぐ私の手を離し距離を取る。
「きちんと足元を見ろ」
それだけ言うと、彼は何事もなかったみたいにそのまま玄関へ向かっていった。
「行ってくる」
「……い、行ってらっしゃい」
ぱたん、とリビングの扉が閉まる。
静かになったリビングの中で、私はしばらくその場から動けなかった。
熱い。手も。耳も。顔も。というか、心臓がおかしい。
私は慌てて胸元を押さえながら、その場にしゃがみ込んだ。
なぜか私がドキドキしている。あの社長相手だというのに……。
スーツ越しに触れた体温も、掴まれた腕の感覚も、耳元で響いた低い声も、全部やけにはっきり残ったままだった。