屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「ご報告が遅くなって申し訳ありませんでした」
声が少し震える。
「朝霧社長と結婚しました。部長と課長にはご迷惑やご面倒をおかけする場面もあると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「や、やめてください」
「頭を上げてください」
課長は慌てたように立ち上がり、部長もぶんぶんと首を横へ振る。
しかも二人とも完全に敬語だった。
私は戸惑いながら顔を上げたが、二人はどこか気まずそうに咳払いを繰り返している。
その後も家での社長の様子や食事はどうしているのか、休日は何をしているのかなど質問攻めにされた。どうやら二人とも社長の私生活が気になって仕方なかったらしい。そのたびに私は答えられる範囲で返事をしながら冷や汗を流し続ける羽目になり、気づけば一時間近くが経過していた。
そしてようやく解放された頃には、朝から張り詰めていた神経が完全に擦り切れていて、私は自席へ戻るなり机に突っ伏した。
社長との結婚が知られるというのは、こういうことなのかもしれない。
まだ社内のほんの数人に伝わっただけだというのに、すでに精神力をごっそり持っていかれた気分だ。私はポケットの中の指輪へそっと触れ、それを強く握りしめた。