屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
「お、おかえりなさい」

 本当はそんな言葉を言うつもりなんてなかったのに、気づけば文句より先に口から出ていた。
 朝霧社長はゆっくりと目を開き、一瞬だけ私に視線を向ける。

「……ただいま」
「もしかして寝てないんですか」
「問題ない」

 いや、それは質問の答えになっていないと思う。
 しかも問題ないという割に目の下にはうっすらクマが浮かんでいるし、普段ならもっと鋭いはずの反応もどこか鈍く見える。

 総務部に直接来ないでくださいと真正面から抗議するつもりだった。
 けれど、今の状態の相手に向かってそれを勢いよくぶつけるのも違う気がして、私は少し迷った末に声の調子を落として口を開いた。

「……あの。できれば、総務部には直接来ないでほしいんですが……。部長も課長も恐縮しすぎてしまって」
「他の用事のついでだ」
「社長が来ると目立つんです」

 すると朝霧社長は、わずかに眉を寄せながら私を見た。

「本来なら隠すような話でもないはずだ。それだけで仕事がやりづらくなるならやめてしまえ。契約結婚とはいえ俺の妻なんだ。仕事を辞めても生活に不自由などさせないさ」
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