屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

「そうだ。綿貫さんって、社長の予定は全部把握してるんですよね?」
「はい」
「その……丸一日じゃなくていいんです。半日でもいいので、空いている時間ってありませんか?」

 綿貫さんの眉がわずかに上がる。

「どうしてです?」
「えっと……」

 社長を好きにさせるための作戦です、などと言えるはずもなく、私はしどろもどろになりながら必死で言葉を探した。

「結婚してからも全然時間が取れてなくて。だから普通の夫婦みたいに、その……デートとかした方がいいのかなって」

 言い終わった瞬間、自分で言っていて恥ずかしくなったが、綿貫さんはからかうこともなく静かに頷いた。

「そういう意味でしたか」
「変でした?」
「いいえ。むしろ当然かと。こちらも気付かず申し訳ありません」

 そう言うと、綿貫さんは慣れた手つきでタブレットを取り出し、その場でスケジュールを確認し始めた。
 画面を操作する指は迷いがなく、さすが秘書だなと感心していると、ほんの数秒後には答えが返ってくる。

「来月二週目の火曜祝日でしたら、午後が空いております」
「本当ですか?」
「ええ。このまま予定を確保しておきます」
「ありがとうございます!」

 思わず声が弾んだ。
 ようやく好きになってもらえるチャンスがつくれる。

 そんな期待が胸いっぱいに広がり、自然と頬が緩む。

「社長も、たまには休むべきですから」

 そう言い残して立ち去っていく綿貫さんの背中を見送りながら、私は少しだけ複雑な気持ちになった。
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