屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 キッチンからは庭の様子がよく見えたからこそ、私はあえて急がず、野菜を刻みながら視線を向け、鍋をかき混ぜながら様子を窺い、盛り付けを考えながらまたそちらへ目を向けるという動作を繰り返していた。

 最初のうちはスマートフォンを操作していた社長も、しばらくすると椅子の背にもたれるように深く身体を預け始め、その十分後には腕を組んで目を閉じ、さらに十分ほど経った頃には完全に眠り込んでいた。

「ふふ……本当に眠っちゃったんですね」

 もちろん返事など返ってくるはずもないのだが、思わずそう呟く。

 私は包丁を動かしながら、普段は隙ひとつ見せない人が無防備に眠っている姿を眺めていた。
 そして、やっぱり私は家の中で過ごすこういう時間が好きなんだなと改めて思った。

 高級レストランや華やかな場所に憧れがないわけではない。だけど、無理をして背伸びをするよりも、こうして庭を眺めながら誰かのために料理を作り、その人が安心して眠っている姿を見守る時間の方がずっと心が落ち着いて、自分にしっくりと馴染むような幸福感があった。
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