屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました
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彼女は自覚的に人を振り回す人間よりも厄介で、計算高く誘惑してくる相手よりも始末が悪く、本人にその気がまったくないまま人の理性を削っていくような人間だ。
しかも本人は何もわかっていない。だからこそ恐ろしい。
この前だってそうだ。
俺はハンカチで汗を軽くぬぐいながら、ふと、二人でワインを飲んだ夜を思い出していた。
『……なんか、ふわふわします』
『飲むのは久しぶりか? 無理するなよ』
『だいじょーぶです』
そう言って笑った夏音の頬はすでにほんのり赤く染まっていて、普段よりも少しだけ緩んだ表情に視線を奪われそうになった。
俺は、グラスを持つ手に力を込めながら何とか平静を装っていたのだが、正直なところ、その時点ですでにかなり危なかった。
――愛しい。
ただそれだけだった。