屋敷を守るための契約結婚だったのに、気づけば冷徹社長に囲い込まれていました

 心臓が止まるかと思った。

 柔らかな身体が密着する感覚に全神経が持っていかれ、理性が危険な音を立てる。
 これは作戦とやらで誘っているのか。そうだと言われたら、さすがに我慢する自信はなかった。

 そんなふうに考えながら、恐る恐るその顔を覗き込む。
 しかし。夏音は完全に眠っていた。

 拍子抜けするほど無防備に。幸せそうな顔で。俺の苦労など何一つ知らないまま……。
 思わず小さくため息をつく。

 安堵したのか落胆したのか、自分でもわからなかった。

 ただ、その寝顔があまりにも愛しくて、気づけば俺は彼女の顎へそっと手を添えていた。
 少し顔を上げれば唇が触れる距離。

 誰も見ていない。彼女も気づかない。今なら――。
 そんな考えが頭をよぎった、そのときだった。

『もういなくならないで……』

 かすれた声が耳に届いた瞬間、俺の身体はぴたりと止まった。
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