あなたをみてる
奏とゆかりが付き合い始めて、しばらく経った。
二度目のデート。
待ち合わせ場所に着くと、ゆかりはすでにそこにいた。
「ごめん、待った?」
「ううん。今来たとこ」
「それ、この前俺が言ったやつ」
「ふふっ、バレた?」
今日は映画を観て、そのあと食事をした。
前回よりも、奏の緊張は少しだけ減っていた。
歩くときは自然に手をつなぐ。
ゆかりも、それを当たり前のように握り返してくれる。
恋人になったんだ。
ようやく、その実感が湧いてきた。
夕方。
店を出ると、空は少しずつ暗くなり始めていた。
「このあと、どうする?」
ゆかりが聞いた。
「どうするって……」
「まだ帰りたくないな」
奏の心臓が跳ねた。
ゆかりが少しだけ顔を覗き込む。
「奏くん?」
「……俺も、まだ一緒にいたい」
「じゃあ、もう少し一緒にいよ」
歩き始めた二人。
しばらくして。
奏は目の前に見えてきた建物を見て、足を止めた。
ゆかりも立ち止まる。
二人とも何も言わない。
奏は一度息を吐いた。
「……入る?」
ゆかりは奏を見つめた。
「うん」
部屋に入った途端、急に静かになった。
さっきまで普通に話していたのに、何を話せばいいのか分からない。
奏は意味もなくテレビをつけた。
「……何見てんの?」
「いや、別に」
「緊張してる?」
「してない」
「嘘」
ゆかりが笑う。
「してるでしょ」
「……してるよ」
正直に答えると、ゆかりはまた笑った。
でも、からかうような笑い方ではなかった。
ゆかりが奏の隣に座る。
肩が触れる。
それだけで、奏の身体が固くなった。
「奏くん」
「ん?」
ゆかりが顔を近づける。
奏もゆっくり近づいた。
唇が重なった。
一度離れて、また重なる。
今までのキスより、少しだけ長い。
奏の手が、ゆかりの肩に触れた。
そこで止まる。
「……どうしたの?」
「いや」
「嫌になった?」
「逆」
「え?」
奏は困ったように笑った。
「この先、どうしたらいいのか分かんない」
ゆかりが瞬きをした。
「もしかして……初めて?」
奏は目を逸らした。
「……悪いかよ」
ゆかりが吹き出す。
「笑うなよ!」
「ごめん、ごめん」
そう言いながらも、まだ笑っている。
「だって奏くん、かわいいんだもん」
「またそれかよ」
奏は恥ずかしそうに頭を掻いた。
しばらくして、ゆかりが奏の手を握った。
「ゆっくりでいいよ」
奏が顔を上げる。
「……ほんと?」
「うん」
「嫌だったら言って」
「分かった」
「絶対だからな」
「分かったって」
ゆかりが笑う。
その笑顔を見て、奏の緊張が少しだけほどけた。
もう一度、キスをした。
今度はさっきよりも自然だった。
「そのまま、洋服脱がせて」
ゆかりがリードする。
「う、うん」
洋服を脱がすと、白のレースのブラジャー姿のゆかりが座っていた。
「これ、前ホックだから」
「わ、わかった」
と言いつつ、手こずりながら、ホックを外す。
そこには、ゆかりの。
触れていいんだろうか。
俺は俺に自問自答する。
「すきにしていいよ」
ゆかりの大胆な発言に歯止めが利かなくなった俺は、ゆかりを押し倒した。
どれくらい時間が経ったのだろう。
奏は裸のままベッドに横になり、天井を見つめていた。
隣にはゆかりがいる。
しばらく、どちらも何も言わなかった。
「……ゆかり」
「ん?」
「俺……大丈夫だった?」
「何が?」
「いや、その……」
最後まで言えず、奏は顔を覆った。
「やっぱいい」
ゆかりが笑う。
「何それ」
「聞くんじゃなかった」
「奏くん」
「ん?」
「私は嬉しかったよ」
奏は顔を覆っていた手を少しずらした。
「ほんと?」
「うん」
「……そっか」
安心したように息を吐く。
ゆかりはそんな奏を見て、また小さく笑った。
真司とは、まるで違った。
真司は何も聞かない。
ゆかりが何を好むのか。 どこで息を止めるのか。 どんなときに身体から力が抜けるのか。
長い関係の中で、もう知っている。
奏は何も知らない。
だから、何度も聞いた。
大丈夫?
嫌じゃない?
痛くない?
そのたびに、ゆかりは答えた。
どちらがいいのか。
そんなことを考えるつもりはなかった。
ゆかりは隣にいる奏を見る。
「奏くん」
「ん?」
「また来よっか」
奏が驚いて振り向いた。
「……いいの?」
「嫌なの?」
「行く」
即答だった。
ゆかりが笑う。
「早っ」
「だって、また来ていいってことだろ?」
「そうだね」
奏は嬉しそうに笑った。
その顔を見て、ゆかりも笑う。
「じゃあ約束」
「うん。約束」
ホテルを出るころには、すっかり夜になっていた。
二人は駅まで手をつないで歩いた。
「次、いつ会える?」
奏が聞く。
「バイトでは会うじゃん」
「そうじゃなくて」
「デート?」
「うん」
ゆかりは少し考える。
「来週は?」
「空ける」
「まだ予定聞いてないでしょ」
「空ける」
「ふふっ」
ゆかりが奏の腕に少しだけ寄り添った。
「じゃあ、来週ね」
「約束な」
「今日、約束ばっかりだね」
「いいじゃん」
「うん」
駅が見えてきた。
奏は、つないだ手を少し強く握った。
ゆかりも握り返す。
「じゃあ、またね」
「またな」
別れる前に、短くキスをした。
ゆかりが改札の向こうへ消えるまで、奏はその場に立っていた。
そして姿が見えなくなると、一人で小さく笑った。
次のデートが、楽しみだった。
ただ、それだけだった。
このときの奏はまだ知らなかった。
次にゆかりと過ごす夜が、
すべてを変える夜になることを。
二度目のデート。
待ち合わせ場所に着くと、ゆかりはすでにそこにいた。
「ごめん、待った?」
「ううん。今来たとこ」
「それ、この前俺が言ったやつ」
「ふふっ、バレた?」
今日は映画を観て、そのあと食事をした。
前回よりも、奏の緊張は少しだけ減っていた。
歩くときは自然に手をつなぐ。
ゆかりも、それを当たり前のように握り返してくれる。
恋人になったんだ。
ようやく、その実感が湧いてきた。
夕方。
店を出ると、空は少しずつ暗くなり始めていた。
「このあと、どうする?」
ゆかりが聞いた。
「どうするって……」
「まだ帰りたくないな」
奏の心臓が跳ねた。
ゆかりが少しだけ顔を覗き込む。
「奏くん?」
「……俺も、まだ一緒にいたい」
「じゃあ、もう少し一緒にいよ」
歩き始めた二人。
しばらくして。
奏は目の前に見えてきた建物を見て、足を止めた。
ゆかりも立ち止まる。
二人とも何も言わない。
奏は一度息を吐いた。
「……入る?」
ゆかりは奏を見つめた。
「うん」
部屋に入った途端、急に静かになった。
さっきまで普通に話していたのに、何を話せばいいのか分からない。
奏は意味もなくテレビをつけた。
「……何見てんの?」
「いや、別に」
「緊張してる?」
「してない」
「嘘」
ゆかりが笑う。
「してるでしょ」
「……してるよ」
正直に答えると、ゆかりはまた笑った。
でも、からかうような笑い方ではなかった。
ゆかりが奏の隣に座る。
肩が触れる。
それだけで、奏の身体が固くなった。
「奏くん」
「ん?」
ゆかりが顔を近づける。
奏もゆっくり近づいた。
唇が重なった。
一度離れて、また重なる。
今までのキスより、少しだけ長い。
奏の手が、ゆかりの肩に触れた。
そこで止まる。
「……どうしたの?」
「いや」
「嫌になった?」
「逆」
「え?」
奏は困ったように笑った。
「この先、どうしたらいいのか分かんない」
ゆかりが瞬きをした。
「もしかして……初めて?」
奏は目を逸らした。
「……悪いかよ」
ゆかりが吹き出す。
「笑うなよ!」
「ごめん、ごめん」
そう言いながらも、まだ笑っている。
「だって奏くん、かわいいんだもん」
「またそれかよ」
奏は恥ずかしそうに頭を掻いた。
しばらくして、ゆかりが奏の手を握った。
「ゆっくりでいいよ」
奏が顔を上げる。
「……ほんと?」
「うん」
「嫌だったら言って」
「分かった」
「絶対だからな」
「分かったって」
ゆかりが笑う。
その笑顔を見て、奏の緊張が少しだけほどけた。
もう一度、キスをした。
今度はさっきよりも自然だった。
「そのまま、洋服脱がせて」
ゆかりがリードする。
「う、うん」
洋服を脱がすと、白のレースのブラジャー姿のゆかりが座っていた。
「これ、前ホックだから」
「わ、わかった」
と言いつつ、手こずりながら、ホックを外す。
そこには、ゆかりの。
触れていいんだろうか。
俺は俺に自問自答する。
「すきにしていいよ」
ゆかりの大胆な発言に歯止めが利かなくなった俺は、ゆかりを押し倒した。
どれくらい時間が経ったのだろう。
奏は裸のままベッドに横になり、天井を見つめていた。
隣にはゆかりがいる。
しばらく、どちらも何も言わなかった。
「……ゆかり」
「ん?」
「俺……大丈夫だった?」
「何が?」
「いや、その……」
最後まで言えず、奏は顔を覆った。
「やっぱいい」
ゆかりが笑う。
「何それ」
「聞くんじゃなかった」
「奏くん」
「ん?」
「私は嬉しかったよ」
奏は顔を覆っていた手を少しずらした。
「ほんと?」
「うん」
「……そっか」
安心したように息を吐く。
ゆかりはそんな奏を見て、また小さく笑った。
真司とは、まるで違った。
真司は何も聞かない。
ゆかりが何を好むのか。 どこで息を止めるのか。 どんなときに身体から力が抜けるのか。
長い関係の中で、もう知っている。
奏は何も知らない。
だから、何度も聞いた。
大丈夫?
嫌じゃない?
痛くない?
そのたびに、ゆかりは答えた。
どちらがいいのか。
そんなことを考えるつもりはなかった。
ゆかりは隣にいる奏を見る。
「奏くん」
「ん?」
「また来よっか」
奏が驚いて振り向いた。
「……いいの?」
「嫌なの?」
「行く」
即答だった。
ゆかりが笑う。
「早っ」
「だって、また来ていいってことだろ?」
「そうだね」
奏は嬉しそうに笑った。
その顔を見て、ゆかりも笑う。
「じゃあ約束」
「うん。約束」
ホテルを出るころには、すっかり夜になっていた。
二人は駅まで手をつないで歩いた。
「次、いつ会える?」
奏が聞く。
「バイトでは会うじゃん」
「そうじゃなくて」
「デート?」
「うん」
ゆかりは少し考える。
「来週は?」
「空ける」
「まだ予定聞いてないでしょ」
「空ける」
「ふふっ」
ゆかりが奏の腕に少しだけ寄り添った。
「じゃあ、来週ね」
「約束な」
「今日、約束ばっかりだね」
「いいじゃん」
「うん」
駅が見えてきた。
奏は、つないだ手を少し強く握った。
ゆかりも握り返す。
「じゃあ、またね」
「またな」
別れる前に、短くキスをした。
ゆかりが改札の向こうへ消えるまで、奏はその場に立っていた。
そして姿が見えなくなると、一人で小さく笑った。
次のデートが、楽しみだった。
ただ、それだけだった。
このときの奏はまだ知らなかった。
次にゆかりと過ごす夜が、
すべてを変える夜になることを。