君のとなり 〜約束の168〜
第17章 名前
付き合い始めてから、毎日の景色が少しずつ変わった。
朝は、駅で待ち合わせ。
改札の前で待っていると、少し離れたところから拓実先輩が歩いてくる。
「瑠夏、おはよう」
「おはようございます、先輩」
二人で並んで学校へ向かう。
ほんの少しの時間なのに、一緒にいられることが嬉しかった。
そして昼休み。
「瑠夏、今日も一緒に食べよう」
「はい」
二人で中庭へ向かい、ベンチに並んで腰を下ろす。
お弁当を広げると、拓実先輩が私のお弁当を覗き込んだ。
「それ、何?」
「タコさんウインナーです」
「一個、食べたい」
「いいですよ」
私は箸で一つつまんで、拓実先輩の前に差し出した。
「はい」
拓実先輩が少し目を丸くする。
「……食べさせてくれるの?」
「え……?」
急に恥ずかしくなる。
でも、先輩は楽しそうに笑っていた。
「……どうぞ」
拓実先輩が少し身を寄せて、ぱくっと食べる。
「おいしい」
「ほんとですか?」
「うん」
先輩が私を見る。
「瑠夏に食べさせてもらったから、もっとおいしい」
「もう……」
顔が熱くなる。
そんな私を見て、先輩が笑った。
「クリスマスさ」
「はい?」
「一緒に過ごさない?」
胸が、どくんと鳴った。
「クリスマス……?」
「うん。初めてのクリスマスだし。瑠夏と一緒にいたい」
その言葉が嬉しくて、自然と笑顔になる。
「はい。私も一緒に過ごしたいです」
「よかった」
先輩が嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ているだけで、私まで幸せな気持ちになった。
放課後は、それぞれ部活へ向かう。
私は新体操部。
拓実先輩は陸上部。
部活中は別々。
だけど、私の部活が終わる頃。
体育館の昇降口へ向かうと、そこには拓実先輩が待っている。
「瑠夏」
「先輩……」
「お疲れ」
「待っててくれたんですか?」
「うん。一緒に帰りたかったから」
その一言だけで、胸がきゅっとなる。
拓実先輩だって陸上部で疲れているはずなのに。
それでも私を迎えに来てくれる。
少しでも一緒にいたい。
その気持ちは、私も同じだった。
二人で駅まで歩く。
朝も一緒。
帰りも一緒。
そんな毎日が、いつの間にか当たり前になっていった。
そして季節は、秋から冬へ。
待ちに待ったクリスマスがやってきた。
待ち合わせ場所で拓実先輩を見つける。
「瑠夏」
「メリークリスマス、先輩」
「メリークリスマス」
街はイルミネーションの光で輝いていた。
並んで歩いていると、冷たい風が吹いてくる。
「寒い?」
「少しだけ……」
拓実先輩が、私の手を握った。
「……冷たい」
「先輩の手、温かいです」
「じゃあ、温めてあげる」
そう言って、先輩は私の手を両手で包み込んだ。
「これなら少しは暖かい?」
「……はい」
指先だけじゃない。
胸の奥まで、じんわり温かくなる。
しばらくイルミネーションを眺めながら歩いていると、拓実先輩がふと足を止めた。
「瑠夏」
「はい?」
「ひとつお願いしていい?」
「なんですか?」
少しだけ照れたように笑って、
「もう、俺のこと『先輩』って呼ばないでほしい」
「……え?」
「名前で呼んで」
心臓が、どくんと大きく鳴った。
「……名前?」
「うん。拓実って」
そんなの……。
今までずっと「拓実先輩」だった。
学校でも。
駅でも。
二人で帰るときも。
ずっと「先輩」と呼んでいた。
それを、急に名前でなんて。
「……無理です」
思わずそう言うと、拓実先輩が笑った。
「なんで?」
「だって……恥ずかしいです」
「俺は呼んでほしい」
「……」
先輩が、優しく私を見る。
「瑠夏に『拓実』って呼ばれたい」
胸がいっぱいになる。
ゆっくり息を吸う。
でも、声にしようとすると恥ずかしくて、喉の奥で止まってしまう。
「……た……」
「うん」
「……たく……」
顔が熱い。
拓実先輩は、急かさずに待ってくれている。
私はぎゅっと手を握った。
「……拓実」
言えた。
たったそれだけなのに、心臓が壊れそうなくらい鳴っていた。
拓実先輩が、一瞬黙る。
そして――。
「……嬉しい」
そう呟いた途端、ぎゅっと抱きしめられた。
「……わっ」
驚いたけれど、その腕の中は温かかった。
「もう一回」
「え……?」
「もう一回、呼んで」
私は胸がいっぱいになりながら、もう一度口にする。
「……拓実」
「うん」
拓実先輩が嬉しそうに笑った。
そして、少し身体を離す。
私の目を見つめて、
「瑠夏」
そのまま身長差を埋めるように、少し屈んで――
おでこに、ちゅっとキスをした。
「……っ」
驚いて目を見開く。
拓実先輩が笑う。
私も恥ずかしくて、思わず笑ってしまう。
すると、拓実先輩のおでこが私のおでこに、こつんと触れた。
「……ふふ」
「……ふふっ」
顔が近い。
恥ずかしい。
でも、嬉しい。
二人で顔を見合わせながら、また笑った。
繋いだ手は、まだ温かい。
私はその手を、ぎゅっと握り返した。
もっと一緒にいたい。
もっと、この人のことを知りたい。
そう思う気持ちは、日に日に大きくなっていた。
私は、ちゃんと拓実を好きになっていた。
朝は、駅で待ち合わせ。
改札の前で待っていると、少し離れたところから拓実先輩が歩いてくる。
「瑠夏、おはよう」
「おはようございます、先輩」
二人で並んで学校へ向かう。
ほんの少しの時間なのに、一緒にいられることが嬉しかった。
そして昼休み。
「瑠夏、今日も一緒に食べよう」
「はい」
二人で中庭へ向かい、ベンチに並んで腰を下ろす。
お弁当を広げると、拓実先輩が私のお弁当を覗き込んだ。
「それ、何?」
「タコさんウインナーです」
「一個、食べたい」
「いいですよ」
私は箸で一つつまんで、拓実先輩の前に差し出した。
「はい」
拓実先輩が少し目を丸くする。
「……食べさせてくれるの?」
「え……?」
急に恥ずかしくなる。
でも、先輩は楽しそうに笑っていた。
「……どうぞ」
拓実先輩が少し身を寄せて、ぱくっと食べる。
「おいしい」
「ほんとですか?」
「うん」
先輩が私を見る。
「瑠夏に食べさせてもらったから、もっとおいしい」
「もう……」
顔が熱くなる。
そんな私を見て、先輩が笑った。
「クリスマスさ」
「はい?」
「一緒に過ごさない?」
胸が、どくんと鳴った。
「クリスマス……?」
「うん。初めてのクリスマスだし。瑠夏と一緒にいたい」
その言葉が嬉しくて、自然と笑顔になる。
「はい。私も一緒に過ごしたいです」
「よかった」
先輩が嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ているだけで、私まで幸せな気持ちになった。
放課後は、それぞれ部活へ向かう。
私は新体操部。
拓実先輩は陸上部。
部活中は別々。
だけど、私の部活が終わる頃。
体育館の昇降口へ向かうと、そこには拓実先輩が待っている。
「瑠夏」
「先輩……」
「お疲れ」
「待っててくれたんですか?」
「うん。一緒に帰りたかったから」
その一言だけで、胸がきゅっとなる。
拓実先輩だって陸上部で疲れているはずなのに。
それでも私を迎えに来てくれる。
少しでも一緒にいたい。
その気持ちは、私も同じだった。
二人で駅まで歩く。
朝も一緒。
帰りも一緒。
そんな毎日が、いつの間にか当たり前になっていった。
そして季節は、秋から冬へ。
待ちに待ったクリスマスがやってきた。
待ち合わせ場所で拓実先輩を見つける。
「瑠夏」
「メリークリスマス、先輩」
「メリークリスマス」
街はイルミネーションの光で輝いていた。
並んで歩いていると、冷たい風が吹いてくる。
「寒い?」
「少しだけ……」
拓実先輩が、私の手を握った。
「……冷たい」
「先輩の手、温かいです」
「じゃあ、温めてあげる」
そう言って、先輩は私の手を両手で包み込んだ。
「これなら少しは暖かい?」
「……はい」
指先だけじゃない。
胸の奥まで、じんわり温かくなる。
しばらくイルミネーションを眺めながら歩いていると、拓実先輩がふと足を止めた。
「瑠夏」
「はい?」
「ひとつお願いしていい?」
「なんですか?」
少しだけ照れたように笑って、
「もう、俺のこと『先輩』って呼ばないでほしい」
「……え?」
「名前で呼んで」
心臓が、どくんと大きく鳴った。
「……名前?」
「うん。拓実って」
そんなの……。
今までずっと「拓実先輩」だった。
学校でも。
駅でも。
二人で帰るときも。
ずっと「先輩」と呼んでいた。
それを、急に名前でなんて。
「……無理です」
思わずそう言うと、拓実先輩が笑った。
「なんで?」
「だって……恥ずかしいです」
「俺は呼んでほしい」
「……」
先輩が、優しく私を見る。
「瑠夏に『拓実』って呼ばれたい」
胸がいっぱいになる。
ゆっくり息を吸う。
でも、声にしようとすると恥ずかしくて、喉の奥で止まってしまう。
「……た……」
「うん」
「……たく……」
顔が熱い。
拓実先輩は、急かさずに待ってくれている。
私はぎゅっと手を握った。
「……拓実」
言えた。
たったそれだけなのに、心臓が壊れそうなくらい鳴っていた。
拓実先輩が、一瞬黙る。
そして――。
「……嬉しい」
そう呟いた途端、ぎゅっと抱きしめられた。
「……わっ」
驚いたけれど、その腕の中は温かかった。
「もう一回」
「え……?」
「もう一回、呼んで」
私は胸がいっぱいになりながら、もう一度口にする。
「……拓実」
「うん」
拓実先輩が嬉しそうに笑った。
そして、少し身体を離す。
私の目を見つめて、
「瑠夏」
そのまま身長差を埋めるように、少し屈んで――
おでこに、ちゅっとキスをした。
「……っ」
驚いて目を見開く。
拓実先輩が笑う。
私も恥ずかしくて、思わず笑ってしまう。
すると、拓実先輩のおでこが私のおでこに、こつんと触れた。
「……ふふ」
「……ふふっ」
顔が近い。
恥ずかしい。
でも、嬉しい。
二人で顔を見合わせながら、また笑った。
繋いだ手は、まだ温かい。
私はその手を、ぎゅっと握り返した。
もっと一緒にいたい。
もっと、この人のことを知りたい。
そう思う気持ちは、日に日に大きくなっていた。
私は、ちゃんと拓実を好きになっていた。