むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―

海色の花嫁

 婚約してから、季節がひとつ巡った。

 結月とるいは、少しずつ結婚式の準備を進めていた。

 そしてある日。

 結月は、真っ白な封筒をテーブルの上に並べた。

 一枚ずつ、丁寧に名前を書いていく。

 瑠璃ちゃん。

 結菜ちゃん。

 佐藤くん。

 そして――

 秀。

 高校時代のクラスメイトたち。

 昔から仲の良かった友達。

 そして、むすび洋菓子店をいつも応援してくれている常連のお客さんたち。

 大切な人たちへ、結婚式の招待状を送った。

「みんなに来てもらえたら嬉しいね」

 るいが隣で微笑む。

「うん」

 結月も笑った。

 かつて、初恋の人を見送った日。

 自分の心には、ぽっかり穴が空いていた。

 けれど今は違う。

 隣には、これから一緒に人生を歩いていく人がいる。

 そして、二人で作ってきた未来がある。

     *

 結婚式の日。

 会場には、たくさんの人が集まっていた。

 瑠璃も、結菜も、佐藤も。

 そして、秀も来ていた。

 秀は静かに会場を見渡していた。

 懐かしいクラスメイトたち。

 昔と変わらない笑顔。

 そして――

 結月の姿を待っていた。

 やがて、扉が開く。

 会場が静かになる。

 そこに現れたのは――

 海色のウエディングドレスを身にまとった結月だった。

「……綺麗」

 誰かが小さく呟いた。

 海を思わせる淡い青。

 柔らかなレースが重なり、歩くたびにドレスが優しく揺れる。

 整った顔立ち。

 ぱっちりとした二重の瞳。

 そして、左目の下にある小さな涙ぼくろ。

 何より――

 結月の笑顔が、とても素敵だった。

「結月、可愛い……」

 瑠璃は目を潤ませながら笑った。

 結菜も、

「本当に綺麗」

 と呟く。

 佐藤も嬉しそうに拍手をした。

 結月は、一人ひとりの顔を見ながら歩いていく。

 そして、その視線が秀のところで一瞬止まった。

 秀も、結月を見つめていた。

 以前のような戸惑いはなかった。

 今度は、ちゃんと結月を知っている。

 高校時代に愛した人。

 そして今は――

 自分とは違う道を歩いている人。

 秀は静かに笑った。

「……綺麗になったな、結月」

 その言葉は、結月には届かなかった。

 結月はそのまま、るいのもとへ歩いていく。

 るいが手を差し出す。

「結月」

「るいさん」

 二人の手が重なる。

 今日から――

 結月は、

 星川結月(ほしかわ ゆづき)

 になった。

 大切な人と結ばれて、新しい名前をもらった。

 それは、むすび洋菓子店の名前のように、

 人と人との縁が結ばれた証だった。

 結月は、海色のドレスを揺らしながら笑った。

 その笑顔を見て、瑠璃は思った。

 ――結月、本当に幸せになったね。

 窓の外には、青い空が広がっていた。

 まるで二人の未来を祝福するように、どこまでも澄んでいた。
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