むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―

小さな女の子

 夕方。

 むすび洋菓子店の忙しさが少し落ち着いた頃だった。

 厨房で片付けをしていた結月のスマートフォンが鳴った。

「もしもし?」

『結月? 瑠璃だよー!』

「瑠璃ちゃん!」

 久しぶりに聞く親友の声に、結月の顔が自然とほころぶ。

『体調、大丈夫?』

「うん。大丈夫だよ」

『もう予定日まで一週間なんでしょ?』

「そうなの。あっという間だった」

『赤ちゃん、楽しみだねぇ』

「うん。私もるいさんも、毎日楽しみにしてる」

 瑠璃の声が、少し弾んだ。

『そうだ! 性別どうだったの?』

「性別?」

『うん! 出産祝い贈りたいから教えて〜』

 結月は、ふふっと笑った。

「女の子だよ」

『えー! 女の子! 可愛いだろうね!』

「うん。るいさんも、もう名前を考えてるよ」

『なんて名前にするの?』

「それは……生まれてからのお楽しみ」

『もう! 結月ったら!』

 二人の笑い声が、静かな店内に響いた。

 そのとき、るいが厨房から顔を出した。

「瑠璃さん?」

「うん」

 結月は電話をしながら、お腹にそっと手を当てる。

「瑠璃ちゃんが、出産祝い贈りたいって」

『るいさんにもよろしくね! 無理しないようにって伝えて!』

「分かった」

 電話を切る。

 るいが近づいてきた。

「何だって?」

「女の子って教えたよ」

「そっか」

 るいは嬉しそうに結月のお腹を見る。

「もうすぐ、この中から小さな女の子が出てくるんだね」

「うん」

 結月は優しくお腹を撫でた。

「どんな子かな」

「きっと可愛いよ」

「親ばかだね」

「まだ生まれてもいないのにね」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 その瞬間――

 ぽこっ。

「……あ」

 結月のお腹が小さく動いた。

「今、動いた?」

「うん」

 るいがそっと手を添える。

「聞こえたかな。瑠璃さんが、出産祝い贈ってくれるって」

「ふふっ。楽しみにしてるかも」

 予定日まで、あと一週間。

 むすび洋菓子店には今日も甘い香りが漂っていた。

 そして二人の心には、まだ見ぬ小さな女の子への期待が、日に日に大きくなっていた。
< 17 / 26 >

この作品をシェア

pagetop