むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―

予定日の2日前

 予定日の二日前。

 その日は、いつもと変わらない朝だった。

 むすび洋菓子店の厨房には、焼きたてのお菓子の甘い香りが漂っていた。

「今日は少しゆっくりしようか」

 るいがそう言った、そのときだった。

「……るいさん」

「ん?」

 結月が立ち止まった。

「なんか……変」

「どうしたの?」

 結月が自分のお腹に手を当てる。

 そして――

「……破水した」

「えっ?」

 るいの顔が一瞬で変わった。

「破水……?」

「うん……」

「分かった。病院に連絡する!」

 るいは慌てながらも、まず病院へ電話をかけた。

「もしもし! 妻が今、破水したんです!」

 病院からの指示を聞きながら、必要なものを確認する。

「はい……分かりました。今から向かいます」

 電話を切ると、るいは急いで動き始めた。

「結月、病院に行こう」

「うん」

「ちょっと待っててね!」

 るいは病院バッグを取りに行く。

 母子手帳。

 必要な書類。

 着替え。

 タオル。

 スマートフォンの充電器。

 そして、お茶とおにぎり。

「おにぎりまで?」

 結月が少し驚く。

「食べられるか分からないけど、持っていこう」

「ありがとう」

「大丈夫。私がいるから」

 るいは荷物をまとめると、結月のところへ戻った。

「ゆっくりでいいよ」

「うん」

 結月の手を握る。

 その手は少し震えていた。

「怖い?」

「ちょっとだけ……」

「大丈夫だよ」

 るいは結月の目を見つめた。

「一緒に行こう」

「うん」

 二人は車へ向かった。

 るいは荷物を車に積み、結月をゆっくり乗せる。

「シートベルト、大丈夫?」

「うん」

「じゃあ、行くね」

 エンジンをかける。

 いつも通っている道なのに、今日は景色が違って見えた。

 予定日は二日後。

 でも――

 赤ちゃんは、自分で生まれる日を決めたようだった。

「結月」

「なに?」

「もうすぐ会えるね」

 るいの声が少し震える。

 結月はお腹に手を当てた。

「うん……」

「私たちの女の子」

「うん」

 結月は小さく笑った。

 怖さの中に、嬉しさがあった。

 もうすぐ。

 本当にもうすぐ。

 二人のもとへ、小さな命がやってくる。

 るいはハンドルを握りしめ、病院へ向かって車を走らせた。

「大丈夫だからね、結月」

「うん……るいさんも、落ち着いてね」

「……頑張る」

 二人は手を取り合いながら、病院へ向かった。
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