むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―

はじめまして、いのり

 病院に到着すると、結月は診察を受けた。

 るいは心配そうに、その様子を見守っている。

 しばらくして、助産師が優しく声をかけた。

「まだですね。もう少し時間がかかりそうです」

「……まだ」

 結月は小さく息を吐いた。

 陣痛は来ている。

 けれど、赤ちゃんが生まれるには、もう少し時間が必要だった。

 るいは結月の手を握った。

「大丈夫。ゆっくりでいいよ」

「うん……」

 時間だけが過ぎていく。

 やがて日付が変わった。

 予定日まで、あと一日。

 陣痛は、少しずつ強くなっていった。

「……痛い……」

 結月が顔をしかめる。

「結月、頑張って」

 るいは立ち会いながら、ずっとそばにいた。

 陣痛が落ち着いた瞬間には、

「お茶、飲める?」

 と、結月の口元にストローを近づける。

「うん……」

「ゆっくりでいいよ」

 少し水分を取ると、るいはおにぎりも用意した。

「少し食べられそう?」

「……一口だけ」

「うん。無理しないで」

 るいは結月が食べやすいように、一口ずつ渡していった。

「ありがとう……」

「私にできることなら何でもするよ」

 結月は痛みに耐えながら、るいの手を握り返した。

「るいさん……」

「うん?」

「そばにいてね」

「ずっといる」

 その言葉に、結月は頷いた。

 そして――

 それから二時間。

「もう少しです!」

 助産師の声が響く。

 結月は最後の力を振り絞った。

「頑張って、結月!」

「うぅ……!」

 るいも、結月の手を強く握っている。

「もうすぐ会えるよ!」

 そして――

 病室に、小さな産声が響いた。

「……!」

 二人とも、一瞬言葉を失った。

 小さな、小さな女の子。

 元気な声で泣いている。

「生まれましたよ」

 その声を聞いた瞬間、結月の目から涙がこぼれた。

「……生まれた」

 るいの目にも涙が浮かぶ。

「結月……」

「うん……」

 二人は、そっと赤ちゃんを見つめた。

 結月の胸元に赤ちゃんが抱かれる。

 小さな手。

 小さな指。

 まだ真っ赤な頬。

 結月は震える声で話しかけた。

「初めまして……」

 るいも、赤ちゃんの小さな手にそっと触れる。

「よろしくね」

 二人で顔を見合わせる。

「ママとパパですよ」

 結月は涙を拭きながら微笑んだ。

「あなたのお名前は……」

 るいが優しく続ける。

「いのりちゃん」

「いのり……」

 結月は、その名前を大切そうに繰り返した。

「素敵な名前だね」

「うん」

 いのりちゃんが、小さく手を動かした。

 その姿を見て、二人は笑った。

 長い夜を越えて。

 新しい朝が始まる。

 むすび洋菓子店から始まった二人の縁は、

 今日――

 三人の家族の縁へと結ばれた。
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