むすび洋菓子店 ―人との縁と縁をつなぐ―
新しい縁
同窓会から、いくつもの季節が過ぎていった。
結月は、あの日のことを思い出さないようにするかのように、毎日お菓子を作った。
朝は仕込み。
昼は店に立ち。
夜は、翌日のケーキの準備。
忙しくしていれば、余計なことを考えなくて済む。
時間だけが、静かに流れていった。
むすび洋菓子店にも、少しずつ常連客が増えていった。
そんなある日のこと。
「こんにちは」
店の扉が開いた。
カラン――。
「いらっしゃいませ」
結月が顔を上げる。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。
湯布院で雑貨屋を営んでいる、星川るい。
結月より一つ年上。
最初は、たまたま店に立ち寄っただけだった。
「今日は何にしようかな」
「いつもありがとうございます」
「ここのケーキ、美味しいからつい来ちゃう」
るいは笑った。
それからだった。
るいは、少しずつ店に来るようになった。
ケーキを買いに来る日もあれば、
「今日はコーヒーだけ」
と言って、店の隅でゆっくり過ごしていく日もあった。
「結月ちゃん、忙しそうだね」
「うん。でも、お菓子作るの好きだから」
「そっか」
るいは、いつも結月の仕事を邪魔しない距離にいた。
無理に話しかけることもしない。
けれど、結月が疲れているときには、
「少し休んだら?」
と優しく声をかけてくれた。
そんな時間が、少しずつ増えていった。
ある雨の日。
閉店時間を過ぎても、るいは店にいた。
「まだ帰らないの?」
結月が笑う。
「雨が止むまで、もう少しいてもいい?」
「もちろん」
二人で窓の外を見る。
湯布院の街に、雨が静かに降っている。
「結月ちゃん」
「なに?」
「私ね……」
るいが少し緊張したように息を吐いた。
「このお店に来るの、ケーキだけが目的じゃなくなった」
結月が振り返る。
「……え?」
「結月ちゃんに会いたくて来てる」
結月は何も言えなかった。
るいは、まっすぐ結月を見る。
「好きです」
その言葉が、静かな店内に響いた。
結月の胸が、どくんと鳴る。
秀を思い出す。
初恋。
同窓会。
忘れられなかった人。
そして、長い時間をかけて少しずつ薄れていった痛み。
結月は、るいを見る。
いつも優しく笑ってくれる人。
自分が作ったケーキを美味しそうに食べてくれる人。
何気ない話を覚えていてくれる人。
「……私でいいの?」
結月が小さな声で尋ねる。
「結月ちゃんがいい」
その答えに、結月の目が少し潤んだ。
もう一度、人を好きになるなんて。
もう、できないと思っていた。
でも――
結月の心の中に、小さな灯りがともった。
「……ありがとう」
結月は、ゆっくり笑った。
「私も……るいさんと、もっと一緒にいたい」
雨音だけが、二人を包んでいた。
過去の縁が切れたからこそ、
新しい縁が結ばれることもある。
店の看板に書かれた言葉。
――人との縁と縁をつなぐ。
その言葉の意味を、結月は初めて自分自身で感じていた。
むすび洋菓子店。
ここで結ばれた新しい縁が、
結月にもう一度、恋をする勇気をくれた。
結月は、あの日のことを思い出さないようにするかのように、毎日お菓子を作った。
朝は仕込み。
昼は店に立ち。
夜は、翌日のケーキの準備。
忙しくしていれば、余計なことを考えなくて済む。
時間だけが、静かに流れていった。
むすび洋菓子店にも、少しずつ常連客が増えていった。
そんなある日のこと。
「こんにちは」
店の扉が開いた。
カラン――。
「いらっしゃいませ」
結月が顔を上げる。
そこに立っていたのは、一人の女性だった。
湯布院で雑貨屋を営んでいる、星川るい。
結月より一つ年上。
最初は、たまたま店に立ち寄っただけだった。
「今日は何にしようかな」
「いつもありがとうございます」
「ここのケーキ、美味しいからつい来ちゃう」
るいは笑った。
それからだった。
るいは、少しずつ店に来るようになった。
ケーキを買いに来る日もあれば、
「今日はコーヒーだけ」
と言って、店の隅でゆっくり過ごしていく日もあった。
「結月ちゃん、忙しそうだね」
「うん。でも、お菓子作るの好きだから」
「そっか」
るいは、いつも結月の仕事を邪魔しない距離にいた。
無理に話しかけることもしない。
けれど、結月が疲れているときには、
「少し休んだら?」
と優しく声をかけてくれた。
そんな時間が、少しずつ増えていった。
ある雨の日。
閉店時間を過ぎても、るいは店にいた。
「まだ帰らないの?」
結月が笑う。
「雨が止むまで、もう少しいてもいい?」
「もちろん」
二人で窓の外を見る。
湯布院の街に、雨が静かに降っている。
「結月ちゃん」
「なに?」
「私ね……」
るいが少し緊張したように息を吐いた。
「このお店に来るの、ケーキだけが目的じゃなくなった」
結月が振り返る。
「……え?」
「結月ちゃんに会いたくて来てる」
結月は何も言えなかった。
るいは、まっすぐ結月を見る。
「好きです」
その言葉が、静かな店内に響いた。
結月の胸が、どくんと鳴る。
秀を思い出す。
初恋。
同窓会。
忘れられなかった人。
そして、長い時間をかけて少しずつ薄れていった痛み。
結月は、るいを見る。
いつも優しく笑ってくれる人。
自分が作ったケーキを美味しそうに食べてくれる人。
何気ない話を覚えていてくれる人。
「……私でいいの?」
結月が小さな声で尋ねる。
「結月ちゃんがいい」
その答えに、結月の目が少し潤んだ。
もう一度、人を好きになるなんて。
もう、できないと思っていた。
でも――
結月の心の中に、小さな灯りがともった。
「……ありがとう」
結月は、ゆっくり笑った。
「私も……るいさんと、もっと一緒にいたい」
雨音だけが、二人を包んでいた。
過去の縁が切れたからこそ、
新しい縁が結ばれることもある。
店の看板に書かれた言葉。
――人との縁と縁をつなぐ。
その言葉の意味を、結月は初めて自分自身で感じていた。
むすび洋菓子店。
ここで結ばれた新しい縁が、
結月にもう一度、恋をする勇気をくれた。