71歳の恋愛小説家
それから隣に座る彼の面倒をよく見るようになった。

加奈子は勉強がよくできたが、その子はなぜか漢字のテストは〇点を取る事が多かった。

その度に皆に揶揄われていて、俯いて泣いている。

加奈子は可哀そうになった。

「泣かないで、今度頑張ろうね」

と言って、短い休み時間には漢字の練習をさせた。

頭という感じは“いちくちそいちいちのめは“と覚えるといいと言って教えたり、今度出そうな漢字を三個でいいからしっかり覚えようと言って、その日三個の漢字をノートに二ページ書かせたりしていた。

まるで、専属のこうるさい家庭教師みたいだったと思う。

でもその次のテストでその子は,六個の漢字を正解して三十点を取った。

そして加奈子に恥かしそうにそのテストを見せてくれた。

加奈子はもう大喜びで、すごいすごいと言って褒め倒した。

加奈子は姉御肌で気も強いが、いい方に転べば面倒見のいい正義感を持った女の子であったのだ。

悪い方に転べば、お山の大将で女の子達を自分の意のままに動かす嫌な奴でもあった。

そして六年生の三学期、皆はほとんどが第一中学校か第二中学校に進むのだが、皆が制服の採寸やオーダーをしているのに、加奈子は見ているだけだったのだ。

その日家に帰って祖母に聞いたが、まだいいんだと言うだけで何も説明してくれなかった。

その夜、先に寝ていた加奈子が夜目を覚ましたら祖父母が居なかったので、母屋の方に行ってみたら居間に叔父夫婦と祖父母が座って話をしていた。

叔父が、
「最初からそう言う約束だっただろう。親がいないならまだしも兄貴にきちんと子供の面倒は見させるべきだ」

そう言っていたのを聞いてしまった加奈子は、そうか父親の所にやられるんだなあと感じた。

祖父母はこれからもここで一緒に暮らさせてほしいと言ったが、

「加奈子も中学生になると、一緒の部屋では可哀そうだろう。もう子供じゃないんだから、自分の境遇はしっかりとわかるべきだ」

とも言った。

加奈子はここに置いてもらっているだけの存在で当たり前ではなかったのだと、六年間暮らして初めて自分の境遇と言う物を自覚した。
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