71歳の恋愛小説家
掃除も、掃除機なんかなかったので、箒で履いて水拭きするのだが、ある日それを一度にできないものかと頭を絞って考えた。

そこで閃いたのが濡れた新聞を細かくちぎって部屋中に撒いて箒で履けば水拭きは必要なくなると思い付いた。

新聞は取っていなかったので、隣のおばさんに要らなくなった新聞を貰ってやってみたら、いい感じにできたので、それからはその方法で掃除をしていた。

隣りのおばさんも新聞が捌けて助かると言っていつも快く新聞をくれたのだ。

加奈子がこういう風にして掃除していると言ったら、おばさんもそれいいねと言って、マネするようになった。

特に板の間は断然綺麗になった。

部屋は玄関の横にキッチンそして、居間と六畳の和室と三畳の板の間が直線状に並んでいる狭い空間だった。

洗濯機は玄関に置いてあった。

今のようにベランダもなかったので、水を流せるのは玄関だけだった。

一番奥の三畳の板の間が加奈子の勉強部屋だった。

線路脇に建つアパートだったので、夕方になると、車内が明るくなり電車の中までよく見渡せた。

電車の音は住んでいれば慣れた。

勉強につかれると、電車を見て気分を変えたりしていた。

あの人はどこまで帰るのだろうかとか、スーツを着ていて吊革につかまりながらうとうとしている人もいた。

仕事の帰りで疲れているのだろうとか加奈子は勉強の合間にそんなことを考えながら電車の中の乗客を観察をして気分を紛らせていた。

祖父に買ってもらった安いラジオで深夜放送を聞くのも、その時の加奈子の癒しでもあった。

そんなに広くない部屋で加奈子はほとんど一人だったので、日曜日に掃除をすれば十分だった。

洗濯も然り、日曜日に家事をするのが加奈子のルーテイーンになった。

ある日明日学校に給食費を持っていかなくてはいけないのに、父が帰ってこなかった時があった。
< 16 / 44 >

この作品をシェア

pagetop