その青は廻る
「着いたぞ」と声を掛けられ、車から降りて足を進めると、背後から「なぁ……」と聞こえた。

「なんですか」そう返して、仏頂面になりかけた表情を整えながら、振り向く。

「仕事が終わったら、飯でも行くか」こちらへ向かうと、視線を逸らしながら、空を仰ぐようにして言った。少し考えて、「時間があれば……」と答えた。すると、軽く頷いて「行くぞ」と、視線を前へ向けた。

 そこから、程なくして、スタジオの正面玄関に着くと、自然にドアを開けて、視線で促してくる。そして、昨日と同じ一室のドアを開けると、当然のような顔をしてこちらを通した。その様子に、思わず口を開く。

「あの、ドアくらい開けられます、ので……」そう吐き出したものの、少し呆気に取られていた。

「悪い。けど、怪我されると困る」ドアを背にしたまま、軽く頷いて、再び視線で促した。とはいえ、自分の位置は決まっていて、すぐにドアの横に身を寄せる。それと同時に、煙草の匂いが横を通り過ぎた。彼は昨日と同じ椅子に座ると、こちらを向かずに「眠いなら寝てもいいぞ。部屋もある」と言った。

『そんなアホなこと……』などと脳内で呟きながらも、『てか、なんでバレてんねん』と一人で漫才をしていた。けれど、今までの気遣いを考えると、彼は少し過剰な性格なのかもしれない、と思った。

 すると、勢いよくドアが開き、一人の男性が入ってきた。その人と目が合った瞬間に、一気に胸が騒ぐ。短くしたツーブロの黒髪、涼やかな目元と綺麗な鼻筋、口元の左脇にあるほくろ。間違いなく、自分が推してる「豆田翔太郎」だった。愛称は「お豆ちゃん」か「翔太」で、ドラマや歌番組などで活躍している。

『まさか、こんなところで……』と棒立ちになって、翔太を眺めていると、こちらを見ながら、「ふーん……」と言って、彼と同じような視線で、上から下まで眺めた。そして彼に向かって「よく見つけたね」と軽く笑うように言った。

「黙れ」彼は窘めるように言って、テーブルの前へ椅子を寄せた。それを合図のように、向かい合わせのソファーへ、翔太が腰を下ろした。おそらく、彼と翔太の関係は、さほど悪くはない。けれど……。

「玉城、飲み物買ってきてほしい。コーヒーでいい、自分の分も忘れずに」そう言いながら財布を取り出し、こちらへお札を差し出すと、すぐに翔太のほうを向いた。

「承知、しました」

 個室を出ると左側に、小さな休憩所がある。数台の自販機の前で、青と赤を見ながら、どちらにしようか迷っていると、自然に指が青へ伸びていた。砂糖やミルクも分からないのに。
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