その青は廻る
「わりぃ、店のことで立て込んでて折り返せなかった……」と軽い息を吐く。続けて静かに吸い込む音がして、煙草を口にしていることが容易に分かった。何度か繰り返す中、タイミングを見計らっていたが、なかなか口を挟めない。三度目の吸い込む音がしたところで、ようやく口を開こうとしたときだった。
「なんかあったのか?」
そう問いかけてきた声の主は、幼馴染の佐々木稔だった。平坦な声に聞こえたが、言葉が喉の辺りに詰まり、そのまま口を閉じた。するとこちらの様子を察したのか、稔は煙を吐き出すと同時に、鼻で笑うような息を漏らした。
「おっけ、今から百数えるわ。いーち、にぃー……」稔はゆっくりと数え始める。
「ねぇ、待って、百は多いねんて」要件より先に思わずツッコミを入れると、稔は深呼吸をひとつして再び問いかけてくる。
「うちで働く気になった?」と明らかに冗談めかして、笑ったような声で言っているが、こちらはまったく笑えない。それはその言葉が現実になろうとしているからだ。
「まぁ、そうなんだけど。キャストはなしで」と、そこだけははっきりと断った。
すると稔は冷静な口調で「理由は?」と問いかけてくる。そこで観念して「会社が倒産したの。で、今ニート」と吐き出した。
「マジかよ……」
沈んだような声色だった。吐き出した言葉の意味を、改めて噛み締めているようだった。やっぱりやめようか、と思う気持ちとは裏腹に口が滑る。
「色々あるでしょ、店の掃除とか……、洗い物とか……」そう言ってみたものの、向こう側では「掃除とか洗い物、か……」と呟いたまま、煙草を吸って吐き出す音と、数人の女性の声や閉店作業の音が流れていた。
このまま食い下がろうか、と考えたところで、昔の記憶が浮かんでくる。稔は「仕方ねぇな」と力の抜けた声を出し、半ば投げやりに「明日から来いよ」と続け、加えて「それまでに上に話はつけておくから」と締めくくるはず。
だが、聞こえてきたのは否定の二文字だった。それから少しの間を置いて稔が言う。
「それより紹介したい仕事がある」まるで待ってました、と言わんばかりの声だった。訝しげな顔をして様子を窺うと、稔は「変な仕事じゃねぇよ」と笑い、「てか、世の中に変な仕事とかねぇし」と、少し真面目な声で言った。
「じゃあ、なんの仕事?」と思わず尋ねたとき、次第に向こう側が静かになっていくことに気づく。「ごめん、キャスト送る時間だわ。取り敢えず、昼までに携帯に詳細送っておくから、またな」慌ただしく告げながらも、最後の声は優しかった。このあと届くという詳細が、少しだけ気になった。
「なんかあったのか?」
そう問いかけてきた声の主は、幼馴染の佐々木稔だった。平坦な声に聞こえたが、言葉が喉の辺りに詰まり、そのまま口を閉じた。するとこちらの様子を察したのか、稔は煙を吐き出すと同時に、鼻で笑うような息を漏らした。
「おっけ、今から百数えるわ。いーち、にぃー……」稔はゆっくりと数え始める。
「ねぇ、待って、百は多いねんて」要件より先に思わずツッコミを入れると、稔は深呼吸をひとつして再び問いかけてくる。
「うちで働く気になった?」と明らかに冗談めかして、笑ったような声で言っているが、こちらはまったく笑えない。それはその言葉が現実になろうとしているからだ。
「まぁ、そうなんだけど。キャストはなしで」と、そこだけははっきりと断った。
すると稔は冷静な口調で「理由は?」と問いかけてくる。そこで観念して「会社が倒産したの。で、今ニート」と吐き出した。
「マジかよ……」
沈んだような声色だった。吐き出した言葉の意味を、改めて噛み締めているようだった。やっぱりやめようか、と思う気持ちとは裏腹に口が滑る。
「色々あるでしょ、店の掃除とか……、洗い物とか……」そう言ってみたものの、向こう側では「掃除とか洗い物、か……」と呟いたまま、煙草を吸って吐き出す音と、数人の女性の声や閉店作業の音が流れていた。
このまま食い下がろうか、と考えたところで、昔の記憶が浮かんでくる。稔は「仕方ねぇな」と力の抜けた声を出し、半ば投げやりに「明日から来いよ」と続け、加えて「それまでに上に話はつけておくから」と締めくくるはず。
だが、聞こえてきたのは否定の二文字だった。それから少しの間を置いて稔が言う。
「それより紹介したい仕事がある」まるで待ってました、と言わんばかりの声だった。訝しげな顔をして様子を窺うと、稔は「変な仕事じゃねぇよ」と笑い、「てか、世の中に変な仕事とかねぇし」と、少し真面目な声で言った。
「じゃあ、なんの仕事?」と思わず尋ねたとき、次第に向こう側が静かになっていくことに気づく。「ごめん、キャスト送る時間だわ。取り敢えず、昼までに携帯に詳細送っておくから、またな」慌ただしく告げながらも、最後の声は優しかった。このあと届くという詳細が、少しだけ気になった。