その青は廻る
「玉城柚月、二十三歳……、ふーん……」
とあるスタジオの個室で、大きな椅子に深く腰掛けた一人の男性が、低い声を漏らした。頑丈そうな肘掛けに頬杖をつき、履歴書を手にしたままこちらを眺める。かと思えば、上から下までゆっくりと視線を落としていく。
およそ二十代後半だろうか、ショートの髪は波のようにうねり、少し青みを帯びた毛先が所々跳ねている。顔の印象は若くも見え、それなりの年齢にも見えたが、右耳に二つ、左耳に一つ、ピアスを下げていることから、若いほうだろうと思い直す。そこから整えられた綺麗な口髭と、乱雑な顎髭へと軽く目を移したあと、再び男性の顔へ視線を戻し、笑顔を貼り付けたまま佇んだ。男性はこちらの視線には気づいていないようで、軽く胸を撫で下ろす。
その男性はオーバーサイズの服を着ていて、裾を直すようにして足を組んだ後、萌え袖になった手で再び頬杖をつき、考え込むように椅子を左右に揺らしている。持ったままの履歴書は既に切り花のように萎れていた。
その様子から、よくある質問に備える。けれど、稔から届いた詳細を鵜呑みにして、ここまで来たことを後悔し始める。
『俺の知り合いにいる作曲家が、人手を探してる。給料面は柚月が今までいた会社よりも上だし、業務内容も悪くない。それに"推し"に会えるチャンスもある。募集も面談も随時してるって言ってたから、次の繋ぎとして行ってみろよ』
さすが幼馴染と言ったところか、こちらに魅力的なキーワードを並べ、最後には選択肢の一つとして置いていた。けれど実際のところは、魅力など感じられない。
「いつから来られる?」聞こえた声に視線を向けると、男性はこちらを見ずに椅子を揺らしている。
「いつでも、大丈夫です」そう答えたと同時に男性はこちらに視線を向け、質問を投げてくる。
「彼氏は?」
やっと来たか、と深呼吸をひとつしたあとで、「いません」と答えた。
「いつから?」と問われた瞬間、思考が止まる……。
これは面接で、接客ではないし接待でもない。どう答えるのが相応しいのか、男性を見ながら探していた。
「聞こえてるのか?いつからいないのかって言ってる」その口調は怒ってはいない。けれど、男性の目線が急かすような気がした。
そこで半ば自棄になりながらも、正直に答える。
「初恋の記憶がないので、ずっとです」
とあるスタジオの個室で、大きな椅子に深く腰掛けた一人の男性が、低い声を漏らした。頑丈そうな肘掛けに頬杖をつき、履歴書を手にしたままこちらを眺める。かと思えば、上から下までゆっくりと視線を落としていく。
およそ二十代後半だろうか、ショートの髪は波のようにうねり、少し青みを帯びた毛先が所々跳ねている。顔の印象は若くも見え、それなりの年齢にも見えたが、右耳に二つ、左耳に一つ、ピアスを下げていることから、若いほうだろうと思い直す。そこから整えられた綺麗な口髭と、乱雑な顎髭へと軽く目を移したあと、再び男性の顔へ視線を戻し、笑顔を貼り付けたまま佇んだ。男性はこちらの視線には気づいていないようで、軽く胸を撫で下ろす。
その男性はオーバーサイズの服を着ていて、裾を直すようにして足を組んだ後、萌え袖になった手で再び頬杖をつき、考え込むように椅子を左右に揺らしている。持ったままの履歴書は既に切り花のように萎れていた。
その様子から、よくある質問に備える。けれど、稔から届いた詳細を鵜呑みにして、ここまで来たことを後悔し始める。
『俺の知り合いにいる作曲家が、人手を探してる。給料面は柚月が今までいた会社よりも上だし、業務内容も悪くない。それに"推し"に会えるチャンスもある。募集も面談も随時してるって言ってたから、次の繋ぎとして行ってみろよ』
さすが幼馴染と言ったところか、こちらに魅力的なキーワードを並べ、最後には選択肢の一つとして置いていた。けれど実際のところは、魅力など感じられない。
「いつから来られる?」聞こえた声に視線を向けると、男性はこちらを見ずに椅子を揺らしている。
「いつでも、大丈夫です」そう答えたと同時に男性はこちらに視線を向け、質問を投げてくる。
「彼氏は?」
やっと来たか、と深呼吸をひとつしたあとで、「いません」と答えた。
「いつから?」と問われた瞬間、思考が止まる……。
これは面接で、接客ではないし接待でもない。どう答えるのが相応しいのか、男性を見ながら探していた。
「聞こえてるのか?いつからいないのかって言ってる」その口調は怒ってはいない。けれど、男性の目線が急かすような気がした。
そこで半ば自棄になりながらも、正直に答える。
「初恋の記憶がないので、ずっとです」