その青は廻る
彼は鼻歌を口ずさみながら、一つずつ確かめるように、五線譜の上に丁寧に音を記している。時折手を止めると、思い出すような仕草で、視線を彷徨わせていた。煙草を口にしたまま、落ちそうな灰を気にも留めずに、左手の指先で静かにカウントしている。顔つきは少し険しかったけれど、眼差しは優しく、とても楽しそうだった。
様子を眺めている間に、自然に口元が綻んでいって、この空間に居られることが、嬉しくなった。
すると、彼は苦笑いをして、短い鼻息を漏らし、軽く視線を上げた。かと思えば、すぐに伏せた。
「飯は?食ったのか」いつもの口調で聞かれ、少し考えたところで、「何か頼むか」と携帯を手にしていた。
そこで、脳内に聞こえた今朝の声に、首を振って、考えてみる。確かにお腹は空いているのに、あまり気が進まない。ただ、喉が乾いていて、水を飲みたくなった。反射的に鞄を手にしようと、向きを変えたところで、思い出した。
椅子からゆっくりと腰を上げ、足を踏み込む。そして息を吐いてから、鞄を探し始める。気配を消すように、目を凝らした。すると、彼の横に立てかけられていた。
再び息を潜めながら近づいて、手を伸ばした瞬間だった。
「どこ行く」こちらを制するような声に、思わず唾を飲み込んで、愛想笑いしながら、「ちょっと、飲み物を……」と返した。けれど内心は、『いや、なんでバレんねん。地獄耳か』と毒づいていた。
そして、個室を抜ける瞬間に、「気をつけろよ……足元」と諭すように言われて、「はい……」と肩をすぼめた。
個室を出て、少し廊下を歩けば休憩所に着く。辺りを見渡せば、受付もあって、個室もちょうどいい距離で並んでいる。正面玄関を抜けて、五分ほど歩けば、地下鉄に乗れる。徒歩圏内にはコンビニやスーパーもあって、職場としてはかなり好条件だ。
給料も良くて、待遇も悪くはない。なのに、どうして今まで人が決まらなかったのかと、考えながら、自販機の前に立っていた。
そこは前と同じように、飲み物が並んでいたけれど、よく見ると、赤が追いやられて、青が増えている。コインを入れて、青を押すと、すぐに文字が黒く変わった。
飲み物を手にしたまま、少し立ち止まる。個室へ戻ったら、ついでに少し話をしてみよう、と考えていた。
様子を眺めている間に、自然に口元が綻んでいって、この空間に居られることが、嬉しくなった。
すると、彼は苦笑いをして、短い鼻息を漏らし、軽く視線を上げた。かと思えば、すぐに伏せた。
「飯は?食ったのか」いつもの口調で聞かれ、少し考えたところで、「何か頼むか」と携帯を手にしていた。
そこで、脳内に聞こえた今朝の声に、首を振って、考えてみる。確かにお腹は空いているのに、あまり気が進まない。ただ、喉が乾いていて、水を飲みたくなった。反射的に鞄を手にしようと、向きを変えたところで、思い出した。
椅子からゆっくりと腰を上げ、足を踏み込む。そして息を吐いてから、鞄を探し始める。気配を消すように、目を凝らした。すると、彼の横に立てかけられていた。
再び息を潜めながら近づいて、手を伸ばした瞬間だった。
「どこ行く」こちらを制するような声に、思わず唾を飲み込んで、愛想笑いしながら、「ちょっと、飲み物を……」と返した。けれど内心は、『いや、なんでバレんねん。地獄耳か』と毒づいていた。
そして、個室を抜ける瞬間に、「気をつけろよ……足元」と諭すように言われて、「はい……」と肩をすぼめた。
個室を出て、少し廊下を歩けば休憩所に着く。辺りを見渡せば、受付もあって、個室もちょうどいい距離で並んでいる。正面玄関を抜けて、五分ほど歩けば、地下鉄に乗れる。徒歩圏内にはコンビニやスーパーもあって、職場としてはかなり好条件だ。
給料も良くて、待遇も悪くはない。なのに、どうして今まで人が決まらなかったのかと、考えながら、自販機の前に立っていた。
そこは前と同じように、飲み物が並んでいたけれど、よく見ると、赤が追いやられて、青が増えている。コインを入れて、青を押すと、すぐに文字が黒く変わった。
飲み物を手にしたまま、少し立ち止まる。個室へ戻ったら、ついでに少し話をしてみよう、と考えていた。