その青は廻る
個室へ戻ると、彼は真剣な面持ちで、手を止めたまま、どこかを見ていた。
思わず息を止めて、テーブルの上を覗く。五線譜の上には音が綺麗に並んでいて、あと僅かで埋まりそうだった。
すぐに引き返して、ドアの横に立ち、水を飲み込む。何度か深呼吸を繰り返したあとで、息を潜めて個室に入る。まるでスパイのように、動作に気をつけながら、鞄に財布を戻す。それと同時に煙草を手にした。
そこで、胸を撫で下ろして、横目で様子を窺う。けれど、表情は変わらないままで、完全にタイミングを逃してしまった。家に帰って食事をしようか、どこかに行こうかと考えながら、何気なくポケットを探る。指を掛けると、あるはずの携帯がなかった。
一通り探ってみたものの、どこにも見当たらない。記憶を辿ってみると、椅子のほうで視線が止まった。あまり気は進まないが、取りに行かなければ、着信が鳴るかもしれない。そう考えたところで、まともな謝罪をしていないことに気がついた。
再び彼を横目で確認すると、素知らぬ顔をして、目的地へ向かう。携帯を手にして、呼吸を整えてから、静かにテーブルの前で膝をついた。
「あの……サボって、すみませんでした……。あと……、これ、稔から……です……」抑揚のない声で吐き出したけれど、視線は右往左往して、どこも見られなかった。
「そこに座るな、目障りだ」低い声を耳にして、やはりかと、その場から立ち上がった。そして、ドアのそばで佇むと、なんだか寂しくなった。携帯もあるし、鞄も近くにある。このまま帰って、ふて寝でもしようかと考えていたときだった。
隣から大きな深呼吸が聞こえて、煙草の煙と匂いが鼻を掠めていく。同じように呼吸を繰り返すうちに、次第に重なった気がした。
「悪い……、少し言い過ぎた」声が落ちて、ため息のようだった。
「いえ……、気にしてません……」そう返すと、彼は静かに息をして、「隣、空いてる」と腰を上げて、椅子へ向かっていく。
そして、ゆっくり腰を下ろすと、深呼吸をしてから、宙を仰いだ。ふと、テーブルの上を見れば、五線譜が綺麗な音で埋められている。その脇には万年筆が寄り添うように置かれていた。そこに在るものを見ているうちに、ソファーへ腰を降ろしていた。
「何か言ってなかったか、あいつ」そう言いながら、宙を眺めたままで、椅子を左右に揺らしている。
「奢ってもらったから、そのお礼にと……」そう返すと、軽く頷いて見せた。
彼と同じようにしてみたけれど、何かを記しているのか、または、どこかへ向かっているのか、想像もできなかった。
思わず息を止めて、テーブルの上を覗く。五線譜の上には音が綺麗に並んでいて、あと僅かで埋まりそうだった。
すぐに引き返して、ドアの横に立ち、水を飲み込む。何度か深呼吸を繰り返したあとで、息を潜めて個室に入る。まるでスパイのように、動作に気をつけながら、鞄に財布を戻す。それと同時に煙草を手にした。
そこで、胸を撫で下ろして、横目で様子を窺う。けれど、表情は変わらないままで、完全にタイミングを逃してしまった。家に帰って食事をしようか、どこかに行こうかと考えながら、何気なくポケットを探る。指を掛けると、あるはずの携帯がなかった。
一通り探ってみたものの、どこにも見当たらない。記憶を辿ってみると、椅子のほうで視線が止まった。あまり気は進まないが、取りに行かなければ、着信が鳴るかもしれない。そう考えたところで、まともな謝罪をしていないことに気がついた。
再び彼を横目で確認すると、素知らぬ顔をして、目的地へ向かう。携帯を手にして、呼吸を整えてから、静かにテーブルの前で膝をついた。
「あの……サボって、すみませんでした……。あと……、これ、稔から……です……」抑揚のない声で吐き出したけれど、視線は右往左往して、どこも見られなかった。
「そこに座るな、目障りだ」低い声を耳にして、やはりかと、その場から立ち上がった。そして、ドアのそばで佇むと、なんだか寂しくなった。携帯もあるし、鞄も近くにある。このまま帰って、ふて寝でもしようかと考えていたときだった。
隣から大きな深呼吸が聞こえて、煙草の煙と匂いが鼻を掠めていく。同じように呼吸を繰り返すうちに、次第に重なった気がした。
「悪い……、少し言い過ぎた」声が落ちて、ため息のようだった。
「いえ……、気にしてません……」そう返すと、彼は静かに息をして、「隣、空いてる」と腰を上げて、椅子へ向かっていく。
そして、ゆっくり腰を下ろすと、深呼吸をしてから、宙を仰いだ。ふと、テーブルの上を見れば、五線譜が綺麗な音で埋められている。その脇には万年筆が寄り添うように置かれていた。そこに在るものを見ているうちに、ソファーへ腰を降ろしていた。
「何か言ってなかったか、あいつ」そう言いながら、宙を眺めたままで、椅子を左右に揺らしている。
「奢ってもらったから、そのお礼にと……」そう返すと、軽く頷いて見せた。
彼と同じようにしてみたけれど、何かを記しているのか、または、どこかへ向かっているのか、想像もできなかった。