その青は廻る
 呼吸をしているのに、聞こえなくて。鼓動も、おなじだった。手の感覚や温かさを、落としたような気がした。

 ここで目を逸らせば、また振り出しに戻る。

 そうなれば……。もう二度と会えなくなる。

 込み上げてくるものを、必死に押さえて、どうにか口を開いた瞬間だった。

「俺は、柚月が好きだ。今後も、変えない」

 その言葉は、しっかりとしていたけれど、震えているように思えた。

「私は……、佐伯さん……」

 揺れているのは、自分のほうで、すでに気づいているはずなのに。

 どうして、涙しか出てこないんだろう……。

 子どものように泣いても、彼を困らせてしまう。なのに、止まらなくて、俯いてしまった。

 慌てて拭っているうちに、節くれが目立つ指を捉えた。そこで、顔を上げると、すぐに引き寄せられた。

「泣くのは、反則だろ……」そう言って、こちらの髪の先のほうを撫でながら、息を整えている。

「ごめんなさい……私……」口にしたいのに、取り出せなくて、もどかしくなった。

 彼は何も言わずに、髪の毛から背中へ優しく手を移すと、静かにカウントし始めた。
 それは、時計の針のように、一定の間隔で刻まれている。けれど、気づけば、呼吸と重なっていた。
 
 そこで、ようやく耳を傾けると、確かな音が響いた。
 
 自然に顔を寄せて、耳を当てながら、同じように、指先で彼の胸元辺りに触れていた。

 まるで、洗いたてのシーツに包まれているような、心地よさだった。温かさに目を閉じかけた時、彼の手が止まって、その手がこちらの手のひらをすり抜けて、指が絡んだ。
 
 そして、こちらの顔を覗き込むように、また、見つめてきた。

 けれど……。

「すき……」

 おそらく、誤差だった。

 目を閉じたのか、それとも、口にしたのか、あるいは……。

 この際、どうでもよかった。

 二度目のキスは少し激しくて、息をしている気がしなかった。それでも……。


「今度、海にでも行くか」

「休み、あるんですか」

「こじあける」

 彼の胸の中へ寄せられると、煙草の匂いがして、胸の音が軽く跳ねた。
 
 この音は、よく知っている。きっと、こうして、また響く。

 同じ速さでなくても、なぞれば、呼応してくれる。

 手を伸ばすと、優しく包んでくれる。

 同じ目線で、口元を上げて、声にしなくても、気持ちを告げていた。

 『あなたが好きです』と。
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