その青は廻る
口にしたあとで、初恋が必ず成就するわけでもないし、彼氏になるとも限らないのに、と思った。そして我ながら滑稽な理由だとも。
すると、男性が微かに口元を上げ、笑みを作った。表現するなら「にこり」ではなく、「にやり」に近い。それはおそらく、こちらが未経験であることを察し、見た目と照らし合わせて納得したような顔だった。
その時、自分の中で「魅力のない男性」から「嫌味な男」に上書きされ、いまだ自己紹介のない男に「失礼な人」と加えて『不採用』の文字を願った。万が一にでも採用されたとなれば、話のネタに使われ、好き勝手に扱われるのがオチだ。
『キャストよりマシだと思ってたのに……』と気持ちを沈ませながらも、真っ直ぐに佇んで次の質疑応答に備える。
だが、男は少し吹き出すように、「記憶がない、か」と軽く言った。続けて「いいんじゃない。じゃあ、今から働いて。あ、もう少し出入り口付近に寄って」と視線で示しながら履歴書を無造作にテーブルの上へ置く。
言われるままに出入り口の横に立つと、男はこちらを一瞥し、おもむろに煙草を取り出してから口にする。僅かに錫色を帯びたジッポで火を点け、深く吸ってゆっくりと吐き出したあと、大きな欠伸をひとつして足を組み直し、背もたれに体を預けて宙を仰いだ。
その様子はいかにも「作曲家です」と言わんばかりの雰囲気で、纏ったオーラが『話しかけるな』とこちらに伝えていた。
思わず萎縮したものの、すぐに思い直すと疑問が湧いてくる。そこで男の様子を眺めながら、頭の中で整理していく。
稔から聞いたことを裏付けるような言葉はないが、近いことは言っている。けれど、中身については一つも触れていないし、思い直しそうな気配もない。つまり、業務が終わるまで、ただ黙って佇む。それが、いつになるのか見当もつかないが、早く終わってほしいと願った。
ふと長めの息を吐き、呼吸を整えている間、見知らぬ人が通り過ぎ、やがてその人数が増していくと、最後に背の高い、綺麗で可愛らしいハーフの女性が入ってきた。
鼻筋の通ったシャープな輪郭、少し緑色が見える瞳に長い睫毛が影を落としている。口角を上げた血色の良い唇も、顔立ちにちょうどよく収まっていた。その女性が通り過ぎるとき、栗色の長い髪を靡かせる姿は、まるでCMを見ているようだった。
すると、男性が微かに口元を上げ、笑みを作った。表現するなら「にこり」ではなく、「にやり」に近い。それはおそらく、こちらが未経験であることを察し、見た目と照らし合わせて納得したような顔だった。
その時、自分の中で「魅力のない男性」から「嫌味な男」に上書きされ、いまだ自己紹介のない男に「失礼な人」と加えて『不採用』の文字を願った。万が一にでも採用されたとなれば、話のネタに使われ、好き勝手に扱われるのがオチだ。
『キャストよりマシだと思ってたのに……』と気持ちを沈ませながらも、真っ直ぐに佇んで次の質疑応答に備える。
だが、男は少し吹き出すように、「記憶がない、か」と軽く言った。続けて「いいんじゃない。じゃあ、今から働いて。あ、もう少し出入り口付近に寄って」と視線で示しながら履歴書を無造作にテーブルの上へ置く。
言われるままに出入り口の横に立つと、男はこちらを一瞥し、おもむろに煙草を取り出してから口にする。僅かに錫色を帯びたジッポで火を点け、深く吸ってゆっくりと吐き出したあと、大きな欠伸をひとつして足を組み直し、背もたれに体を預けて宙を仰いだ。
その様子はいかにも「作曲家です」と言わんばかりの雰囲気で、纏ったオーラが『話しかけるな』とこちらに伝えていた。
思わず萎縮したものの、すぐに思い直すと疑問が湧いてくる。そこで男の様子を眺めながら、頭の中で整理していく。
稔から聞いたことを裏付けるような言葉はないが、近いことは言っている。けれど、中身については一つも触れていないし、思い直しそうな気配もない。つまり、業務が終わるまで、ただ黙って佇む。それが、いつになるのか見当もつかないが、早く終わってほしいと願った。
ふと長めの息を吐き、呼吸を整えている間、見知らぬ人が通り過ぎ、やがてその人数が増していくと、最後に背の高い、綺麗で可愛らしいハーフの女性が入ってきた。
鼻筋の通ったシャープな輪郭、少し緑色が見える瞳に長い睫毛が影を落としている。口角を上げた血色の良い唇も、顔立ちにちょうどよく収まっていた。その女性が通り過ぎるとき、栗色の長い髪を靡かせる姿は、まるでCMを見ているようだった。