別府の湯けむり、君と50年の未来

また、別府へ

 翌朝。

 窓から差し込む朝の光で、雪は目を覚ました。

 今日、遥斗は別府へ帰る。

 二人で過ごした時間が終わってしまうと思うと、胸が少し寂しくなった。

 玄関では、遥斗が荷物をまとめていた。

「遥斗くん、忘れ物ない?」

「うん。大丈夫」

 雪のお母さんも玄関まで見送りに来てくれた。

「遥くん、またいつでも来てね」

「はい。ありがとうございました」

「今度はもっとゆっくりしていきなさいね」

 遥斗は笑って頭を下げた。

「ありがとうございます。また来ます」

 雪も玄関で遥斗を見送る。

「私も……また別府に帰るけん」

「ああ。待ってる」

 三人で駅へ向かった。

     *

 鎌倉駅。

 ホームには、朝の通勤客が行き交っている。

 電車が入ってくる。

「じゃあ、行ってくる」

「うん」

 雪は少し寂しそうに笑った。

「二年後……」

「分かってる」

 遥斗は笑った。

「迎えに来る」

 雪は頷いた。

「待っちょるけん」

 遥斗は最後に、雪とお母さんへ深く頭を下げた。

「ありがとうございました」

「気をつけて帰ってね」

「はい」

 電車のドアが開く。

 遥斗が乗り込む。

 ドアが閉まる直前、雪が手を振った。

「遥斗!」

「雪!」

 二人は笑顔で手を振り合った。

 電車がホームを離れていく。

 雪は姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

     *

 東京駅に到着した遥斗は、荷物を持って乗り換える。

 行きに父親が教えてくれた通り、乗り換えを確認しながら進んでいく。

 やがて空港へ向かい、飛行機に乗り込んだ。

 窓の外には、東京の街が小さくなっていく。

 遥斗は座席に座り、ポケットから一枚の写真を取り出した。

 昨日、雪と海辺で撮った写真。

 その笑顔を見ながら、遥斗は小さく呟いた。

「あと二年……」

 焦らなくていい。

 五年待てた。

 だから、あと二年だって待てる。

 でも――。

 今度は、待たせるだけじゃない。

 必ず迎えに行く。

 そして二人で別府へ帰る。

 八幡朝見神社で、夫婦になる。

 飛行機は、ゆっくりと西へ向かって飛んでいった。

 遥斗の大切な故郷――別府へ。

 そして、二年後の未来へ。
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