別府の湯けむり、君と50年の未来

父への報告

 夕方。

 飛行機を降りた遥斗は、見慣れた別府の街へ戻ってきた。

 空港から家へ向かう道。

 窓の外には、どこか懐かしい大分の景色が広がっている。

 湯煙も見える。

「……帰ってきたな」

 遥斗は小さく呟いた。

 家に着くと、父親が玄関まで出てきた。

「おかえり」

「ただいま」

「疲れたか?」

「ちょっとな。でも、大丈夫」

 遥斗は荷物を置いた。

 そして、父親の前に座る。

「父さん」

「ん?」

「話したいことがある」

 父親が遥斗を見る。

「雪のことか?」

「うん」

 遥斗は少し照れながら、それでも真っ直ぐに話した。

「俺、二年後に雪を嫁として、この家に連れて帰るつもり」

 父親は一瞬、黙った。

 そして、ふっと笑った。

「そうか」

「うん」

「雪ちゃんも、それを望んでるのか?」

「うん。二人で約束した」

 遥斗は、鎌倉の海辺で交わした言葉を思い出した。

「一緒に別府へ帰ろうって」

 父親は頷いた。

「そうか……」

 そして、嬉しそうに笑った。

「だったら、二年かけてしっかり準備しないとな」

「うん」

「仕事も頑張らんとな」

「分かってる」

「家に迎えるんだ。雪ちゃんが安心して暮らせるようにしておけ」

 遥斗は力強く頷いた。

「任せて」

 父親は遥斗の肩を軽く叩いた。

「頑張れよ」

「ありがとう、父さん」

 その夜。

 遥斗は自分の部屋の窓から、別府の街を眺めていた。

 白い湯煙が、夜空へゆっくりと昇っている。

 五年前。

 大分駅で雪に「待ってて」と伝えた。

 そして今日。

 今度は自分が雪を迎えに行くと、父親にも伝えた。

「あと二年……」

 遥斗は静かに笑った。

「待っててな、雪」

 二人の未来へ向かう時間が、今日からまた始まった。
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