別府の湯けむり、君と50年の未来

浜辺の約束

 翌日の夕方。

 雪は遥斗を、鎌倉の海へ連れてきた。

 夕暮れの砂浜には、波の音だけが静かに響いている。

 二人は並んで砂浜を歩いた。

 雪が裸足になって波打ち際へ行くと、冷たい海水が足元を撫でる。

「気持ちいいね」

「うん」

 遥斗は、少し緊張した表情で雪を見つめていた。

「雪」

「ん?」

「話したいことがある」

「どうしたの?」

 遥斗は一度、海へ視線を向けた。

 そして、雪にまっすぐ向き直る。

「あと二年、待ってほしい」

「……二年?」

「ああ」

 雪は黙って遥斗を見る。

「仕事をちゃんと頑張って、俺が雪を迎えに行く」

 遥斗の声は、静かだけれど強かった。

「そのときは、一緒に別府に帰ろう」

 雪の瞳が揺れる。

「別府に……?」

「うん」

 遥斗は頷いた。

「俺、雪と一緒に人生を歩みたい」

 波が二人の足元まで寄せては、静かに戻っていく。

「雪と笑って、泣いて、いろんなことを一緒に乗り越えて……ずっと隣にいたい」

 雪の目に涙が浮かんだ。

「遥斗……」

「それで」

 遥斗は少し照れながら続けた。

「朝見神社で、結婚式をしよう」

「……!」

 雪の頬を涙が伝った。

「別府の八幡朝見神社?」

「ああ」

 遥斗は笑う。

「前に約束しただろ。一緒に行こうって」

「うん……」

「今度は、ただ一緒に行くだけじゃない」

 遥斗は雪の手をそっと握った。

「夫婦になって、二人で歩きたい」

 雪は涙を拭きながら笑った。

「……嬉しい」

「それから、朝見神社の参道にある夫婦杉も一緒に見よう」

 雪は頷く。

「夫婦がずっと幸せでいられるっていう、言い伝えがあるんよね」

「ああ」

 遥斗は優しく笑った。

「俺たちも、あの木みたいになろう」

「ずっと一緒?」

「ずっと」

 雪は遥斗の手を強く握り返した。

「約束やけんね」

「約束」

 二人は海を見つめた。

 遠くへ沈んでいく夕日。

 波の音。

 繋いだ手。

 そして、二年後の未来。

 五年前に交わした「待っていて」という約束は、いつしか――

 「一緒に別府へ帰ろう」という、新しい約束へ変わっていた。

 雪は、遥斗の肩にそっと寄り添った。

「私、二年待つよ」

「ありがとう」

「だって……私も、遥斗と一緒の人生を歩みたいけん」

 遥斗は笑った。

 夕暮れの海辺で、二人はもう一度、未来を約束した。
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