別府の湯けむり、君と50年の未来

雪のための家

 大分空港に着くと、遥斗と雪は荷物を受け取り、空港を後にした。

「別府まで、俺が運転するよ」

「うん」

 遥斗が車の運転席に座り、雪は助手席に座る。

 車がゆっくり走り出す。

 窓の外には、大分の景色が流れていく。

「なんか……不思議」

 雪が小さく呟いた。

「何が?」

「こうして遥斗の隣に座って、別府に帰るなんて」

 遥斗は笑った。

「俺も不思議な感じする」

 けれど、雪の胸は次第にドキドキしていった。

 別府が近づいている。

 湯煙が見える。

 見慣れた山々が近づいてくる。

「……別府」

 雪が窓の外を見る。

 懐かしい景色だった。

 鎌倉で暮らした時間も大切だった。

 でも、やっぱりこの景色を見ると胸が温かくなる。

     *

 車が別府市内へ入る。

 雪は、遥斗の実家へ向かうのだと思っていた。

 ところが――。

「遥斗?」

「ん?」

「こっちの道……実家と違うよね?」

「ああ」

 遥斗は笑った。

「今日は実家じゃないよ」

「え?」

 車は、別府の街を抜け、少しずつ坂道を上っていく。

 雪は不思議そうに窓の外を見る。

「どこに行くの?」

「もうすぐ分かる」

 やがて、車が一軒の大きな家の前で止まった。

「……え?」

 雪は目を丸くした。

 そこには、広い庭のある大きな家が建っていた。

 新しく、綺麗な家。

 玄関の横には、一枚の表札。

 そこに書かれていた名前を見て、雪は息を呑んだ。

 「天宮」

 遥斗と同じ名字だった。

「……ここ?」

「ああ」

 遥斗がエンジンを切る。

 雪はまだ、状況が分からない。

「遥斗……この家って?」

 遥斗は車から降り、雪のほうへ回ってドアを開けた。

「二年の間に建てたんだ」

「……え?」

「雪のために」

 雪の瞳が大きくなる。

「私の……ため?」

「ああ」

 遥斗は少し照れながら笑った。

「一緒に別府で暮らすって約束しただろ?」

 雪は家を見上げる。

 大きな窓。

 温かな色の外壁。

 そして、遥斗と同じ名字が刻まれた表札。

「ここで、雪と暮らしたかった」

 雪の目に涙が浮かぶ。

「遥斗……」

「五年前に約束したこと、全部覚えてる」

 遥斗は雪の手を握る。

「これからは、俺たちの家だよ」

 雪は涙を拭いながら笑った。

「……ありがとう」

「気に入ってくれた?」

「うん……すごく」

 雪はもう一度、家を見上げた。

 長い時間をかけて待った未来。

 それが今、目の前にある。

 そして表札には――

 天宮

 二人がこれから作っていく、新しい家族の名前が刻まれていた。
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