別府の湯けむり、君と50年の未来

5月の約束

 五月のある夜。

 仕事から帰ってきた遥斗は、夕食を食べながら、ふと思い出したように雪へ声をかけた。

「雪」

「ん?」

「今週の土曜日、空けておいて」

「土曜日? 何かあるの?」

 雪が不思議そうに首を傾げる。

「うん。結婚式のために、着物を仕立てに行きたいんだ」

「……結婚式?」

 雪の箸が止まった。

 遥斗は笑った。

「そう。俺たちの結婚式」

「分かってるよ。でも……急に言われたからびっくりした」

「ごめん。でも、ちゃんと準備したいから」

 雪は嬉しそうに笑った。

「いつするの?」

「十二月の初め」

「十二月……」

 雪はカレンダーを見る。

 そして、少し驚いた顔をした。

「まだ五月なのにね」

「だから今から準備するんだよ」

「早いね」

「早くないよ」

 遥斗は真剣な顔で答えた。

「雪との結婚式だから、妥協したくない」

「……もう」

 雪は照れて、少し俯いた。

「嬉しい」

 遥斗は雪の手を握る。

「朝見神社で、ちゃんと夫婦になる」

「うん」

「夫婦杉の前でも写真を撮ろう」

「撮りたい」

 雪は嬉しそうに頷いた。

「着物、どんなのにしようかな」

「雪なら何でも似合うよ」

「そういうのじゃなくて、一緒に選んでよ」

「もちろん」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 五月の夜。

 十二月の結婚式を夢見ながら、二人の新しい準備が始まった。

 まだ半年以上先。

 けれど――。

 二人にとっては、待ち遠しくて仕方のない日だった。
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