別府の湯けむり、君と50年の未来

空色の花嫁

 土曜日。

 雪と遥斗は、結婚式の衣装を選ぶため、着物店を訪れていた。

「白無垢かなぁ……」

 雪は並んだ着物を見ながら呟く。

「それとも赤?」

「どっちも似合いそうだな」

 遥斗も一緒に着物を眺めていた。

 白無垢に赤い色打掛。

 どれも美しく、雪はなかなか決められない。

 そのとき――。

「こちらはいかがでしょう?」

 店員が一着の着物を持ってきた。

「……え?」

 雪が目を見開く。

 それは、今まで見ていた着物とは少し違っていた。

 水色を基調にした、レースを使った着物。

 淡い空色の生地に、繊細なレースが重なっている。

 伝統的な着物なのに、どこか現代的。

 そして、雪の雰囲気によく似合っていた。

「斬新……」

 雪は鏡の前に立つ。

 着物を身体に合わせてもらうと、鏡の中に映った自分を見つめた。

 遥斗はしばらく黙っていた。

「……これがいい」

「え?」

 雪が振り返る。

「俺、これがいい」

 遥斗は着物を見つめながら言った。

「雪が一番映える」

「私が?」

「ああ」

 水色は、雪の好きな色。

 海や空を思わせる色。

 そして、二人がこれまで交わしてきた約束を思わせる色でもあった。

「空色みたいで、雪に似合ってる」

 雪は鏡を見ながら、少し恥ずかしそうに笑った。

「……じゃあ、これにしようかな」

 その後、遥斗の父親にも見てもらった。

「いいじゃないか」

 父親は頷く。

「雪ちゃんに、よく似合ってる」

 続いて、雪のお母さんにも写真を見せた。

『まあ……! 素敵』

 嬉しそうな声が返ってくる。

『雪、すごく似合うよ』

「お母さんもそう思う?」

『うん。水色って、雪らしいね』

 雪は嬉しそうに笑った。

「じゃあ……決まりだね」

 遥斗も頷く。

「ああ」

 二人で選んだ、空色の着物。

 十二月の結婚式。

 まだ五月なのに、もう花嫁の準備が始まった。

 雪は着物を眺めながら、そっと呟く。

「十二月が楽しみだね」

「うん」

 遥斗は雪の隣に立った。

「その日に、朝見神社で夫婦になる」

 雪は笑顔で頷いた。

「約束だよ」

「もちろん」

 空色の着物が、二人の未来を優しく彩っていた。
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